
保健統計と疫学の最後の記事です。ここまでで、数え方(保健統計)と調べ方(疫学の研究デザイン)を見てきました。最後は「出てきたデータをどう疑うか」です。
やることは2つ。因果関係と言えるための5条件を覚えること。そして誤差の種類を整理すること。どちらも名前の似た用語を取り違えさせるタイプの出題なので、意味から思い出せる形にしておきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
因果関係の判断基準(クライテリア)5条件

「AとBに関連がある」ことと「AがBの原因である」ことは別です。因果関係と言うためには、次の5つを確かめます。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ①時間的関係(時間性) | 大前提。要因は疾患に先立つか? 曝露が先、発症が後 |
| ②関連の強さ(強固性) | 統計的に関連があるのか? オッズ比、相対危険度などで確かめる |
| ③関連の特異性 | 何が要因となっているのか? 仮説を立てて検討する |
| ④関連の一致性 | 何回やっても同じ結果になるか? 時期・場所・対象を変えても再現するか |
| ⑤関連の整合性 | 他分野からみても矛盾しないか? 動物実験や基礎研究の知見と合うか |
覚え方は、①から⑤へ「順番に厳しくなっていく」と捉えることです。
まず前後関係が正しいか(①)。次に偶然ではないと統計で言えるか(②)。次に何が効いているのか特定できるか(③)。次に別の集団でも再現するか(④)。最後に疫学以外の分野から見ても矛盾しないか(⑤)。
ここが取り違えポイント
国試は②③⑤の説明文を入れ替えてきます。第107回・問121がまさにそれでした。
- 「疫学以外の実験的な研究で得られた知見や理論と矛盾しない」 → これは⑤整合性。「強固性」と書いてあったら誤り
- 「要因の曝露があると相対危険度やオッズ比が統計学的に有意に高くなる」 → これは②強固性。「特異性」と書いてあったら誤り
- 「要因の曝露があれば必ず疾病の発生があり、曝露がなければ発生がない」 → これは③特異性。「整合性」と書いてあったら誤り
「他分野」と書いてあれば整合性、「統計的に有意」と書いてあれば強固性、「必ず」「1対1」と書いてあれば特異性。 キーワードで引っかけてください。
そして第107回で正しかった2つはこちらです。
- 関連の一致性:調査の時期・場所・対象集団などを変えても同様の結果が得られる
- 関連の時間性:疾病の発生以前に要因の曝露がある
誤差は2種類 ― 偶然誤差と系統誤差

的の中心を「真の姿」、矢の跡を「観察結果」として考えます。横軸が妥当性、縦軸が精度です。
- A) 中心に集まっている … 妥当性も精度も高い(理想)
- B) 中心のまわりにバラバラ … 偶然誤差(精度が低い)
- C) 一か所に固まっているが中心からずれている … 系統誤差(妥当性が低い)
- D) ずれたうえにバラバラ … 両方低い
バラける(B)が偶然誤差、ずれる(C)が系統誤差。 この2つの絵の違いで覚えるのがいちばん速いです。
偶然誤差
- 方向性のない誤差
- 調査漏れや重複など
- サンプル数を多くすれば解決できる
標本誤差もここに入ります。日本人全体(母集団)からサンプルを抽出するとき、ちゃんと無作為に抽出しても、たまたま偏ることがある。これが標本誤差で、標本誤差は偶然誤差のひとつです。
偶然誤差はサンプルを増やせば小さくなる――ここがポイントです。
系統誤差(=偏り・バイアス)
- 「系統誤差」≡「偏り」≡「バイアス」。同じものの別名です
- 方向性のある誤差
- サンプル数を増やしても解決しません(同じ方向にずれ続けるだけ)
系統誤差には3種類あります。
系統誤差の3種類
①情報バイアス ― 聞き方で変わってしまう
思い出しバイアスが代表例です。症例対照研究で、「あなたは肺がんになりましたが、10年前に喫煙していましたか?」と聞くと、「言われてみれば、そうだったかもしれない」と答えが引っ張られます。
病気になった人のほうが過去を熱心に思い出すため、曝露が過大に報告される。方向性があるので系統誤差です。検出バイアスも情報バイアスに含まれます。
アンケートの取り方で結果が変わってしまう、と理解してください。
②選択バイアス ― 集め方が偏っている
標本抽出のやり方が作為的だったりすると起きます。たとえば健康な人だけが研究に参加する、特定の病院の患者だけを集める、など。
回避法は、無作為抽出とマッチング。 対策とセットで覚えます。
③交絡因子 ― 第三の要因が見せかけの関係を作る

いちばん出題されるのがこれです。
調査をしたら、「タバコを吸う人が肝臓がんになりやすい」という結果が出た。ところが本当の原因はお酒だった。タバコを吸う人はお酒もよく飲むことが多いため、タバコが肝臓がんの原因であるかのように見えてしまう。
この「たばこ」が交絡因子です。図の矢印のとおり、
- お酒 → 肝臓がん(これが本当の因果関係)
- お酒 ↔︎ たばこ(たばこを吸う人は酒も飲む)
- 結果としてたばこ → 肝臓がんに見える
交絡因子は系統誤差の一つに含まれます。ここは分類問題で問われます。
交絡の回避・調整
交絡は、研究の設計段階と解析段階の両方で対処できます。
| 段階 | 方法 |
|---|---|
| 設計段階 | 無作為化(ランダム化)、マッチング、限定 |
| 解析段階 | 層別化、多変量解析 |
無作為化比較試験(RCT)のエビデンスレベルが高いのは、無作為化によって交絡因子が両群に均等にばらけるからです。研究デザインの記事で見たエビデンスレベルの順番は、ここに理由がありました。
国試ではこう問われる
| 回 | 問われ方 | ポイント |
|---|---|---|
| 第107回・問121 | 因果関係を判定する際の基準 | 一致性=時期・場所・対象を変えても同じ結果、時間性=疾病の発生以前に曝露が正しい。強固性・特異性・整合性の説明が入れ替えられている |
| 第108回・問195 | バイアスや交絡に関する記述 | ランダム化で選択バイアスを小さくできる、マッチングで交絡要因の影響を小さくできるが正しい。「非盲検化により情報バイアスを小さくできる」は誤り(逆) |
| 第102回・問189 | 薬物A・Bの副作用発現割合と重症度 | 重症度が交絡因子。層別化で解析段階の調整ができる、多変量解析でバイアス要因を解析できる |
| 第98回・問126 | イタイイタイ病の調査 | 「この調査では交絡因子に関する情報は得られない」の正誤 |
| 第111回・問195 | メタアナリシス | 出版(公表)バイアスに留意する。ファンネルプロットで評価 |
第108回・問195の選択肢5「フォレストプロットにより公表バイアスを評価できる」は誤りです。公表バイアスを評価するのはファンネルプロット、効果量を並べて示すのがフォレストプロット。この2つも入れ替えの定番なので、ここで一緒に押さえておいてください。
まとめ
- 因果関係の5条件は①時間的関係 ②関連の強さ(強固性) ③関連の特異性 ④関連の一致性 ⑤関連の整合性
- キーワードで判別:「他分野」=整合性、「統計的に有意」=強固性、「必ず・1対1」=特異性、「時期・場所を変えても」=一致性
- 誤差は偶然誤差(バラける、サンプル増で解決)と系統誤差(ずれる、サンプル増では解決しない)
- 系統誤差 ≡ 偏り ≡ バイアス。標本誤差は偶然誤差のほう
- 系統誤差は情報バイアス(思い出しバイアス)・選択バイアス・交絡因子の3つ
- 交絡因子は第三の要因が見せかけの関係を作る(たばこ・お酒・肝臓がん)
- 交絡の対処は、設計段階=無作為化・マッチング、解析段階=層別化・多変量解析
次は保健統計と疫学まとめ|13記事で全体像をつかむを読んでみてください。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
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