
前の記事で、電磁波を波長の順に一直線に並べました。波長が短いほどエネルギーが大きく、波長が長いほど透過性が大きい。
この記事は、その直線の上に健康影響を乗せるだけです。紫外線の中でさらに3つに分かれ、そのすぐ隣に赤外線がいる。位置が分かれば、何が起こるかは全部そこから出てきます。
ここは物理側の記事に無い、衛生固有の範囲です。そして前の記事で見たとおり、「非電離放射線のうち〜」という形で第108・109・110回と3年連続で出題されています。取りこぼしたくない単元です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。
Contents
まず1枚の図で位置を確定させる

波長の区切りは、この2つの数字だけです。
400nm ─── UV-A ─── 315nm ─── UV-B ─── 280nm ─── UV-C ─── 100nm
左が波長が長い = 透過性が大きい。右が波長が短い = エネルギーが大きい
覚えるのは315と280の2つ。可視光線の端が400nmで、そこから紫外線が始まります。
図の右端は「10nm」ではなく「100nm」で覚えてください。 上のマインドマップの図は紫外線の短波長端を10nmとしていますが、国際的な区分(CIE)でもUV-Cは100〜280nmです。第108回の問題図も100nmから始まっています(誤記リストM-109)。
そして、もう1本、地表に届くかどうかの線があります。
UV-Cはオゾン層でほぼ吸収され、地表には届かない。地表に到達するのはUV-AとUV-B。
この2本の線(315/280という区切りと、280という地表の境目)が、この単元の全部です。以下は、この2本から導けます。
UV-C|エネルギーは最強。でも地表には来ない
UV-Cは紫外線の中でいちばん波長が短い = エネルギーが最大。だから、当たれば障害も最大です。
- DNAの吸収がある……チミンダイマー(ピリミジンダイマー)を作って、DNAを直接壊す
- ところが、オゾン層でほぼ吸収されるので、地表にはほとんど届かない
「最強なのに、届かないから怖くない」——ここがUV-Cのキャラクターです。逆に言えば、オゾンホールができるとこれが降り注ぐので問題になる。オゾン層破壊のメカニズムとフロンとここでつながります。
殺菌灯は254nm。 UV-Cの帯域で、DNAを壊せるから殺菌できるわけです。滅菌・消毒の単元で出てくる「紫外線消毒」の正体はこれです。ちなみに赤外線には殺菌作用はありません(第102回で「遠赤外線は殺菌灯に用いられる」という誤り選択肢が出ています)。
チミンダイマーの位置づけ
チミンダイマー(ピリミジンダイマー)は、隣り合ったチミン(ピリミジン)同士がくっついてしまうDNA損傷です。これができると複製がそこで止まります。
生物の「ヌクレオチド除去修復」でそのまま出てくる話で、第104回でも「紫外線照射によりチミン二量体が生じた大腸菌DNAのヌクレオチド除去修復」という形で問われています。第103回にも「紫外線曝露は、DNA鎖上にピリミジン二量体を生じさせる」という選択肢があります。呼び方が2通りあることに注意してください。
UV-Cがいちばん作るのですが、地表に届くのはUV-Bなので、実際にヒトの皮膚でチミンダイマーを作っているのは主にUV-Bです。ここは「理論上の最強(UV-C)」と「現実の主犯(UV-B)」を分けて理解してください。
UV-B|地表に届く、いちばん厄介なやつ
UV-B(280〜315nm)は、DNAの吸収波長に近い。しかも地表に届く。だから皮膚がんの主犯です。
UV-Bの作用は4つあります。
| 作用 | 中身 |
|---|---|
| DNA損傷 → 皮膚がん | DNAに直接吸収されて障害を起こす |
| サンバーン → サンタン | まず赤くなり(サンバーン)、あとから黒くなる(サンタン) |
| ビタミンD₃の生成 | 皮膚の7-デヒドロコレステロールからビタミンD₃(コレカルシフェロール)ができる |
| 眼の障害 | 角膜炎・結膜炎・白内障 |
UV-Bだけが「良いこともする」のがポイントです。ビタミンD₃は日光に当たらないと作れない。ここだけプラスの作用があるので、記憶のフックになります。
ビタミンD₃は「活性型になる」のではありません。 紫外線がやるのは7-デヒドロコレステロール → プレビタミンD₃ → ビタミンD₃(コレカルシフェロール)までです。活性型(1,25-ジヒドロキシビタミンD₃)にするのは、そのあとの肝臓(25位)と腎臓(1位)の水酸化です。講義では「活性型にする」と言っていますが、正確には違います(誤記リストV-39)。第109回でも「コレカルシフェロールは、紫外線照射により動物の皮膚で7-デヒドロコレステロールから…」という形で出ています。
サンバーンとサンタン
日焼けは2段階です。
- サンバーン(紅斑)……まず赤くなる。炎症反応
- サンタン(色素沈着)……あとから黒くなる。メラニンができる
そして、UV-AとUV-Bでは、このサンタンの出方が違います。
UV-A のサンタン = 即時型(すぐ黒くなる) UV-B のサンタン = 遅発型(1〜2週間あとに黒くなる)
UV-Bは「赤くなってから、あとで黒くなる」。UV-Aは「赤くならずに、すぐ黒くなる」。海水浴のあと、その日のうちに少し黒くなるのがUV-A、翌日以降に赤くヒリヒリして、しばらくして黒く残るのがUV-Bです。
UV-A|透過性が大きいから、真皮まで届く
UV-A(315〜400nm)は紫外線の中でいちばん波長が長い = 透過性が最大。
- 透過性が大きいので、表皮を越えて真皮まで届く
- DNAの吸収はない。だから直接DNAを壊すのではない
- では何をするか……細胞内で活性酸素を発生させ、その活性酸素が皮膚がんの原因になる
- サンタンのみ(即時型)。サンバーンは起こさない
「DNAを直接壊すのではなく、活性酸素を介して間接的にやる」——これがUV-Aの特徴です。活性酸素と生体防御の話は活性酸素と生体防御の記事でやっているので、SOD・カタラーゼ・グルタチオンペルオキシダーゼとつながります。
また、真皮まで届くということは、コラーゲンなどの真皮成分にダメージが及ぶということ。日焼け止めのPA(Protection Grade of UVA)がUV-A防止の指標で、SPFがUV-B(サンバーン)防止の指標である、という対応も第103回の実務問題で出ています。
3つを1枚に
| UV-A | UV-B | UV-C | |
|---|---|---|---|
| 波長 | 400〜315nm | 315〜280nm | 280〜100nm |
| エネルギー | 小 | 中 | 大 |
| 透過性 | 大(真皮へ) | 中 | 小 |
| 地表に届く | ○ | ○ | ×(オゾン層で吸収) |
| DNAの吸収 | なし | あり | あり |
| チミンダイマー | — | ○ | ○ |
| 皮膚がん | ○(活性酸素経由) | ○(DNA直接) | — (地表に届かない) |
| サンバーン | × | ○ | — |
| サンタン | 即時型 | 遅発型 | — |
| その他 | 真皮まで到達 | ビタミンD₃生成/角膜炎・結膜炎・白内障 | 殺菌灯254nm |
この表を縦に読むと、全部「波長の位置」から説明がつきます。
- 波長が長い(UV-A)→ 透過性が大きい → 真皮へ
- 波長が短い(UV-C)→ エネルギーが大きい → DNAを壊す・殺菌できる
- まん中(UV-B)→ DNAも壊せるし、地表にも届く → いちばん実害が大きい
丸暗記するところは、315と280という数字だけです。
赤外線|熱で内側からやられる
紫外線の反対側、可視光線より波長が長い側が赤外線です。
波長が長い = 透過性が大きい。暖房器具の宣伝で「遠赤外線で芯から温まる」と言うのは、体の内側まで届くという意味です。
赤外線の健康影響は2つだけです。
| 影響 | 中身 |
|---|---|
| 熱性白内障(ガラス工白内障) | 眼の水晶体タンパク質が熱で変性して白濁する。ガラス工・溶鉱炉など高温作業従事者の職業病 |
| 熱中症 | 体の内側が温まる |
「ガラス工白内障 = 赤外線」は、そのまま国試の問題文になっています(第110回 問22)。白内障はUV-Bでも起こるので、「ガラス工」「高温作業」と書いてあったら赤外線、という読み分けが必要です。
赤外線の紛らわしい点を3つ。 ①紫外線より長波長(短波長ではない)。②紫外線より皮膚の透過性が高い(低くない)。③殺菌作用はない(殺菌灯はUV-Cの254nm)。この3つがそれぞれ誤り選択肢になっています。
国試ではこう問われる
紫外線は15年で17ファイル・32か所に登場する頻出テーマです。聞かれ方は4つ。
① UV-A/B/Cの性質を入れ替える
第100回 問134がその典型です。
| 選択肢 | 正誤 | どこが違うか |
|---|---|---|
| UVBはUVAより皮膚透過性が高い | 誤 | 透過性はUVAのほうが高い(波長が長い) |
| UVBはUVAよりオゾン層の透過率が小さい | 正 | 波長が短いほどオゾン層に吸収されやすい |
| UVBはサンタンを引き起こすが、UVAはサンタンを引き起こさない | 誤 | UVAもサンタンを起こす(即時型) |
| UVBは皮膚のDNAに損傷を与える | 正 | — |
| 地上部での光化学オキシダント生成に寄与するのは主にUVC | 誤 | UVCは地表に届かない |
「透過性」と「エネルギー」を取り違えさせるのが定番です。UV-Aは透過性が高く、UV-Cはエネルギーが高い。この2つは別の軸です。
② 「非電離放射線のうち〜」という形で絞らせる
| 出題回 | 問い | 答えの軸 |
|---|---|---|
| 第108回 問240 | 海水浴で肌に生じた症状の原因となる主な非電離放射線は? | サンバーンなのでUV-B |
| 第109回 問24 | 地上部での光化学オキシダントの生成に関与する主な非電離放射線は? | UV-C は地表に届かないので切る。地表に届く紫外線=UV-Aが答えの軸 |
| 第110回 問22 | 眼の水晶体タンパク質の変性によるガラス工白内障を引き起こすのは? | 赤外線 |
3問とも選択肢の顔ぶれは UV-A / UV-B / UV-C / 可視光線 / 赤外線。上の表1枚で全部答えられます。
なお光化学オキシダントは、光化学オキシダントの生成機構でやった窒素酸化物と炭化水素に紫外線が当たって生じる二次汚染物質です。第103回・第110回でも「一次汚染物質と紫外線との反応」という形で出ています。
③ 実務と絡める(日焼け止め)
第103回では、SPF・PAの意味と、日焼け止めの成分(紫外線吸収剤と紫外線散乱剤)がまとめて問われました。
- SPF……UV-B(サンバーン)防止効果の指標。数字が大きいほど高い
- PA……UV-A防止効果の指標。+の数で表す
- 「海水浴後に肌が赤くなる原因は、主にUVAによるもの」→ 誤(赤くなる=サンバーン=UV-B)
④ 赤外線の位置と性質
- 第102回 問23……赤外線の正しい記述は? → ガラス工などの高温作業従事者における白内障の原因となる
- 第101回……「赤外線は紫外線よりも短波長である」→ 誤
- 第111回……「赤外線の波長領域は、紫外線と可視光線の間にある」→ 誤
まとめ
- 覚える数字は315と280の2つだけ。400〜315がUV-A、315〜280がUV-B、280〜100がUV-C
- もう1本の線は「地表に届くか」。UV-Cだけオゾン層で吸収されて届かない
- UV-A……透過性最大 → 真皮へ。DNA吸収なし。活性酸素経由で皮膚がん。サンタンのみ(即時型)
- UV-B……DNAに吸収 → チミンダイマー → 皮膚がん。サンバーン → サンタン(遅発型)。ビタミンD₃生成。角膜炎・結膜炎・白内障
- UV-C……エネルギー最大。DNA吸収あり。殺菌灯254nm。ただし地表には届かない
- ビタミンD₃は「生成」までが紫外線の仕事。活性型にするのは肝臓と腎臓
- サンタンの出方が違う。UV-A=即時型、UV-B=遅発型
- 赤外線……透過性が大きく内側を温める。熱性白内障(ガラス工白内障)と熱中症。殺菌作用はない
- 「透過性」と「エネルギー」は別の軸。UV-Aは透過性が高く、UV-Cはエネルギーが高い
- 「非電離放射線のうち〜」は第108・109・110回と3年連続。選択肢の顔ぶれは毎回ほぼ同じ
これで、衛生の「化学物質・放射線の生体への影響」は最後まで到達しました。
電離放射線の各論——α壊変・β壊変・γ転移、半減期と放射平衡、ベクレル/グレイ/シーベルト、確定的影響と確率的影響、組織の感受性と核種の集積臓器——は、物理の放射化学と放射性医薬品まとめから4本の記事に分かれています。衛生で問われる内容もそこに全部入っているので、続けて読むならそちらへどうぞ。
次は化学物質と放射線まとめ|41記事で全体像をつかむを読んでみてください。Dブロック41記事を1枚の地図にして、「毒はどこで毒になるのか」という1本の軸で並べ直してあります。
動画で学びたい人へ
この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。
衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、衛生という科目のほんの一区画です。実際には、保健統計・疫学から疾病の予防、食品衛生、化学物質の毒性、生活環境までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。
衛生のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1枚に収めたPDFです。地図をたどりながら話す講義動画はYouTubeで全編無料公開しているので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。