日本の社会保障制度の全体像で見た4本の柱のうち、法規のメインである医療保険をここで詳しく見ていきます。制度の名前が似ていて覚えにくい分野ですが、「なぜこういう分け方になったのか」という成り立ちから入ると、暗記量がぐっと減ります。遠回りに見えて、これが一番の近道です。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
まずは1枚の図で全体像を

医療は大きく医療保障による医療と自費による医療に分かれ、ここで扱うのは前者です。医療保障による医療はさらに次のように分かれます。
| 分類 | 制度 | 対象 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 被用者保険(職域保険) | 勤めている人 |
| 医療保険 | 国民健康保険(地域保険) | 自営業など |
| ― | 後期高齢者医療制度 | 原則75歳以上 |
| 公費負担 | 生活保護、公衆衛生関係、社会福祉関係 | ― |
日本は国民皆保険制度なので、誰もがどこかの制度に属しています。そして、医療保険に入っている人が原則75歳になると、それまでの医療保険を脱退して後期高齢者医療制度に移る、という構造です。
なぜこの分け方になったのか(成り立ち)
| 年 | できごと |
|---|---|
| 大正11年 | 健康保険法制定 |
| 昭和33年 | 国民健康保険法(全面改正で加入が強制化) |
| 昭和36年 | 国民皆保険制度の実現 |
明治の後半、製鉄所のような大企業で労働問題が起こり、企業内に共済組合が発足しました。これが政府の監視下に入って健康保険法になった、というのが出発点です。つまり日本の医療保険は「企業に勤めている人の保険」から始まったということ。
ということは、企業に勤めていない自営業や農家の人は無保険だったわけです。そこを埋めるために国民健康保険法ができ、昭和36年に全員がどこかの保険に入る国民皆保険が実現しました。
「被用者保険が先、国民健康保険が後」という順番を押さえておくと、国民健康保険が「最後の受け皿」と呼ばれる理由も、扶養という考え方がない理由も、自然に理解できます。なお、加入する制度は職業と年齢によって決まるので、自分で選ぶことはできません。
被用者保険(職域保険)
職場に勤めている人が入る保険で、職場によって入る保険や共済組合が異なります。
| 区分 | 制度 | 主な対象 | 保険者 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ) | 主に中小企業 | 全国健康保険協会 |
| 健康保険 | 健康保険組合 | 主に大企業 | 各健康保険組合 |
| 各種共済 | 国家公務員共済組合、地方公務員共済組合など | 公務員など | 各共済組合 |
| ― | 船員保険 | 船員 | ― |
ここで大事なのが、それぞれに根拠となる法律があるということです。健康保険なら健康保険法、国家公務員共済組合なら国家公務員共済組合法、というように別々の法律があり、その中で保険給付の種類が決められています。
- 医療給付(療養の給付、入院時食事療養費など)は、どの保険でもほぼ同じ
- 現金給付(傷病手当金、埋葬料など)は、保険によって有無や名称が違う(健康保険は「埋葬料」、国民健康保険は「葬祭費」など)
「医療の中身は共通、お金の給付は制度ごとに差がある」と整理しておきましょう。保険給付の中身そのものは健康保険法の保険給付を整理の記事で扱います。
国民健康保険(地域保険)
国民皆保険の最後の受け皿です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 国民健康保険法 |
| 保険者 | 都道府県、市町村、特別区 |
| 対象者 | 以下のいずれにも加入していない人:職域保険/後期高齢者医療制度/国民健康保険組合/生活保護 |
「〜に加入していない人」という定義そのものが、最後の受け皿であることを表しています。生活保護受給者は国民健康保険の対象から外れる(医療扶助で対応する)点は誤り選択肢の定番なので注意してください。
国民健康保険組合とは
保険者にはもう1つ、国民健康保険組合があります。これは同種の事業または業務に従事する者を組合員として組織するもので、薬剤師国保組合などが実例です。
なぜわざわざ組合を作るのかというと、国民健康保険には「扶養」という考え方がないからです。組合を作ることで、市町村の国民健康保険とは違う独自の給付設計ができる、というメリットがあります。
保険給付については、療養の給付の中身は健康保険法と同じです。
後期高齢者医療制度
根拠法は高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 75歳以上の人/65歳以上75歳未満で一定の障害がある人 |
| 運営主体 | 後期高齢者医療広域連合 |
| 基本 | 75歳になったら医療保険を脱退して後期高齢者医療制度に編入される |
| 一部負担金 | 原則1割 |
窓口負担の割合について。マインドマップは「原則1割」と押さえていますが、令和4(2022)年10月から、一定以上の所得がある人は2割負担が導入されており、現役並み所得者は従来どおり3割です。第109回では「所得により医療費の窓口負担割合が異なります」が正しい記述として問われているので、「原則1割、ただし所得によって2割・3割がある」まで押さえておきましょう。
なぜこの制度が作られたのか
ここが理解のカギです。医療保険は社会保険方式、つまり「その保険に入っている人たちの保険料でその人たちの医療を回す」しくみでした。すると、加入者に高齢者が多い保険ほど財政的に不利になります。
被用者保険は定年までの比較的若い人が中心です。一方、定年退職した人は国民健康保険に入ります。つまり、放っておくと高齢者が国民健康保険に集中して、国民健康保険だけが極端に苦しくなるという構造でした。
そこで、75歳以上を別枠の制度にまとめ、そこに公費を集中的に投入することで、国民健康保険と被用者保険の負担の偏りを是正した、というのが後期高齢者医療制度の狙いです。高齢者医療確保法の目的に挙げられている「制度間の医療費負担の不均衡の調整」がまさにこれにあたります。
高齢者医療確保法の目的は次の3つです。
- 制度間の医療費負担の不均衡の調整
- 医療費の適正化(医療費適正化計画)
- 保険者による健康診査等の実施
保健事業(特定健康診査・特定保健指導)
3つ目の「保険者による健康診査等の実施」の中身がこれです。
- 対象:40歳以上の医療保険加入者
- 内容:特定健康診査(いわゆるメタボ健診)と、その結果が思わしくなかった人への特定保健指導
- 費用:原則として保険者が負担して実施する
後期高齢者医療制度の加入者に対しては、健康診査などが行われます。「40歳以上」「実施するのは保険者」の2点を押さえてください。
国試ではこう問われる
- 第101回 問147(公的医療保険制度):正しい記述として「全国健康保険協会管掌健康保険は、被用者保険である」「国民皆保険制度が成立したのは、昭和30年代である」。誤り選択肢に「国民健康保険の保険者は、国である」「生活保護受給者は、国民健康保険に加入する」「最も加入者が多いのは、後期高齢者医療制度である」。
- 第110回 問147(医療保険制度):誤り選択肢に「75歳以上の被保険者が支払う一部負担金の割合は、所得に関わらず同じである」「健康保険の被保険者が扶養する配偶者や子供は、国民健康保険に加入しなければならない」「健康保険では、勤務中や業務により発生した病気や怪我等を対象に療養の給付を行う」。最後のものは業務上の傷病は労災保険の守備範囲なので誤りです。
- 第109回 問311(後期高齢者医療被保険者証の説明):正しい記述として「所得により医療費の窓口負担割合が異なります」「65歳以上75歳未満の方は一定の障害と認定された場合、加入することができます」。誤り選択肢に「運営主体は全国健康保険協会です」(正しくは後期高齢者医療広域連合)「当該制度の加入者は高額療養費制度を利用できません」。
- 第105回 問149:正しい記述として「国民はいずれかの公的医療保険に加入する」。誤り選択肢に「自らが将来使用する医療費を予め積み立てておく自助の原則による」「医療保険制度による医療の財源に、公費は含まれていない」。
「保険者は誰か」「運営主体は誰か」を入れ替える作問が非常に多いので、表の左列と右列をセットで覚えてください。
まとめ
- 医療保険は被用者保険(職域保険)と国民健康保険(地域保険)、これに後期高齢者医療制度が加わる
- 成り立ちは大正11年 健康保険法 → 昭和33年 国民健康保険法 → 昭和36年 国民皆保険。企業の共済組合が出発点
- 被用者保険は協会けんぽ(中小企業)と健康保険組合(大企業)、各種共済、船員保険。医療給付はほぼ共通、現金給付は制度ごとに差
- 国民健康保険の保険者は都道府県・市町村・特別区と国民健康保険組合。最後の受け皿で、扶養の概念がない
- 後期高齢者医療制度は高齢者医療確保法が根拠。75歳以上(+65〜74歳の一定の障害)、運営主体は後期高齢者医療広域連合、一部負担金は原則1割(所得により2割・3割)
- 高齢者医療確保法の目的は負担の不均衡の調整・医療費の適正化・保険者による健康診査等。保健事業は40歳以上に特定健康診査・特定保健指導
次は薬物療法の経済評価手法(ICER・QALY・費用効果分析4種類)を理解するを読んでみてください。
法規を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。
法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。