ここからは「③社会保障制度と医療経済」に入ります。ここまでの薬機法や薬剤師法が医療を提供する側から見た法律だったのに対して、この分野は医療を受ける側から見た制度です。最初のテーマは医療経済。まずは「今、日本の医療費がどうなっているのか」という現状を数字で押さえて、そのうえで次の記事以降で制度のしくみに入っていきます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
国民医療費は「何の費用」を集計したものか
国民医療費は、当該年度内に医療機関等で行われた保険診療の対象となる傷病の治療に要した費用を推計したものです。定義の中に「保険診療の対象」と「傷病の治療」という2つの条件が入っているのがポイントで、国試で問われるのはほぼこの線引きです。
含まれないものを、理由とセットで並べておきます。
| 含まれないもの | 外れる理由 |
|---|---|
| 正常な妊娠・分娩に要する費用 | 傷病の治療ではないため(保険診療の対象外) |
| 健康の維持増進目的の健康診断・予防接種 | 治療ではなく予防のため |
| 介護保険から給付される医療系サービス | 医療保険ではなく介護保険からの給付だから |
| 一般用医薬品(OTC)の購入費 | 保険を使っていないため |
| 差額ベッド代などの選定療養にかかる自己負担 | 保険外の費用だから |
逆に言えば、「傷病の治療」にあたるものは保険診療である限り入ります。ここが引っかけになりやすいところで、たとえば帝王切開による分娩は異常分娩なので国民医療費に含まれます。「妊娠・分娩は入らない」と丸暗記していると落とし穴にはまるので、「正常な妊娠・分娩」の“正常な”まで込みで覚えてください。
国民医療費の内訳を1枚の図で押さえる
数字そのものは毎年更新されますが、全体の形(どこが大きくて、どこが小さいか)は数年単位ではほとんど変わりません。まずは形を頭に入れてしまいましょう。

以下は令和4(2022)年度の数字です(厚生労働省「令和4年度 国民医療費の概況」)。
総額:46兆6,967億円
財源別の構成割合
| 財源 | 割合 |
|---|---|
| 保険料 | 50.0%(事業主21.7%・被保険者28.3%) |
| 公費 | 37.9%(国庫25.3%・地方12.6%) |
| 患者負担等 | 12.1% |
だいたい「保険料で半分、公費で4割弱、患者の窓口負担で1割ちょっと」という形です。若い人は3割負担ですが、医療費を多く使う高齢者が原則1割負担なので、全体でならすと患者の負担分は1割程度に落ち着く、という説明が講義でもされています。
診療種類別の構成割合
| 診療の種類 | 割合 | 金額 |
|---|---|---|
| 医科診療医療費 | 72.4% | 33兆8,255億円 |
| 歯科診療医療費 | 6.9% | 3兆2,275億円 |
| 薬局調剤医療費 | 17.1% | 7兆9,903億円 |
薬剤師国家試験なのに、なぜかここがよく出ます。薬局調剤医療費は全体の2割弱、金額にして約8兆円。そしてその約7割が薬剤料で、残りが調剤技術料・薬学管理料などです。「約8兆円」「そのうち7割が薬剤料」の2つはセットで覚えてください。
一人当たりの国民医療費は年齢で大きく変わる
総額を人口で割った一人当たりの国民医療費は、令和4年度で37万3,700円です。これを年齢階級で割ると、差がはっきり出ます。
| 年齢階級 | 一人当たり国民医療費(令和4年度) |
|---|---|
| 65歳未満 | 20万9,500円 |
| 65歳以上 | 77万5,900円 |
| 75歳以上 | 94万900円 |
65歳未満と65歳以上でおよそ4倍、75歳以上と比べるとおよそ4.5倍です。この「年齢が上がるほど一人当たり医療費が跳ね上がる」という事実が、このあと出てくる後期高齢者医療制度がなぜ必要だったのか、そして薬物療法の経済評価がなぜ必要になったのかの両方につながっていきます。
数字は必ず年度を確認してください。国民医療費は毎年更新され、令和5(2023)年度は48兆915億円と過去最高を更新しています。国試では「◯年度の国民医療費」と年度を指定して出題されることが多いので、直前期には厚生労働省の「国民医療費の概況」で最新の数字を確認しておきましょう。この記事の数字は令和4年度のものです。
参考:医薬品の生産金額
医療費とは別に、医薬品の生産金額にも軽く触れておきます。マインドマップでは令和3年のデータとして約9兆円、そのうち医療用:一般用 = 9:1、つまり9割が医療用医薬品と押さえています。こちらも年によって動くので、最新の数字は厚生労働省の「薬事工業生産動態統計」で確認してください。
国試ではこう問われる
過去15年分を見ると、国民医療費は必須問題でも理論問題でも定期的に出題されるテーマです。実際の問われ方を挙げておきます。
- 第103回 問76:「国民医療費に含まれるのはどれか」→ 正答は帝王切開による分娩。一般用医薬品の購入、特定健康診査の受診、肺炎球菌感染症の予防接種はいずれも含まれません。
- 第100回 問78:「国民医療費に関する記述のうち正しいのはどれか」→ 正答は「一般用医薬品の購入費用は含まれない」。「財源の80%以上は保険料である」は誤り(保険料は約5割)。
- 第105回 問73:「国民医療費の増加要因として適切でないのはどれか」→ 正答は「介護保険制度の創設」。介護保険ができたことで介護分が国民医療費から外れたので、これは減少要因です。医療技術の高度化・疾病構造の変化・高齢化はいずれも増加要因。
- 第109回 問149:「国民医療費の動向(2015〜2019年度)」→ 正答は「保険料のみの財源では賄えず、不足分について公費を投入している」「傷病分類別医科診療医療費では循環器系の疾患が最も多い」。誤り選択肢として「50兆円を超えている」「制度区分別では後期高齢者医療給付分が最も多い」「診療種類別では薬局調剤医療費が最も多い」が並びます。診療種類別のトップは医科診療医療費、という基本の形を押さえていれば切れます。
つまり、細かい金額そのものよりも「何が含まれるか」「どこが一番大きいか」「増える要因か減る要因か」が問われているということです。
まとめ
- 国民医療費は「保険診療の対象となる傷病の治療」の費用。正常な妊娠・分娩、健康診断・予防接種、介護保険からの給付、OTCは含まれない。ただし帝王切開は含まれる
- 令和4(2022)年度の総額は46兆6,967億円。財源別はおおむね保険料5割・公費4割弱・患者負担1割強
- 診療種類別は医科診療が7割強、薬局調剤医療費が約17%で約8兆円。薬局調剤医療費の約7割が薬剤料
- 一人当たりは年間約37万円だが、65歳以上は約78万円、75歳以上は約94万円と年齢で大きく変わる
- 数字は毎年更新されるので、必ず「何年度のデータか」を確認する
次は日本の社会保障制度の全体像(4つの柱と財源・給付の割合)を読んでみてください。
法規を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。
法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。