医薬品医療機器等法(薬機法)

医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度のしくみ【薬剤師国家試験】

前回の薬害の年表で、スモン事件を契機に医薬品副作用被害救済制度が、クロイツフェルト・ヤコブ病を契機に生物由来製品感染等被害救済制度が生まれた、という話をしました。今回はその2つの制度の中身です。

この単元は出題範囲としてはコンパクトですが、財源の出どころと給付されない場合が細かく問われます。制度の「なぜこう作られたのか」を先に理解しておくと、細部が驚くほど素直に入ってきます。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。

マインドマップで見る「健康被害救済制度」

薬害と健康被害救済制度のマインドマップ(薬害の歴史・医薬品副作用救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度)
薬害と健康被害救済制度のマインドマップ(薬害の歴史・医薬品副作用救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度)

なぜこの制度ができたのか

ここを理解しないまま細部に入ると、必ず迷子になります。

制度ができる前

薬が原因で健康被害が起きても、被害者はメーカーの過失を証明して損害賠償を請求するしかありませんでした。裁判には膨大な時間と費用がかかります。薬害の年表を見ればわかるとおり、決着までに何年もかかった事件ばかりです。

制度ができた後

そこで発想を変えました。

健康被害の救済を、民事責任(誰が悪いか)から切り離す。

賠償責任を負うべき者が明らかでない場合の救済を目的とし、製薬業界全体として対応する。

「誰が悪いかはいったん棚上げして、まず被害者を助ける」という制度です。だからこそ製薬企業がお金を出し合って財源を作っています。

この発想がわかっていると、後で出てくる「賠償責任者が明らかな場合は給付しない」という規定も、暗記ではなく理屈で思い出せます。責任者がはっきりしているなら、その人に請求すればいい。この制度の出番ではない、というわけです。

法的根拠と目的

根拠法は「機構法」

独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(略称:機構法)

この法律は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)を設立した法的根拠でもあります。薬機法ではない、というところに注意してください。

法の目的は2つある

①許可医薬品等の副作用および②許可生物由来製品等を介した感染等による健康被害の迅速な救済を図り、

並びに、医薬品等の品質・有効性・安全性の審査等の業務を行い、もって国民保健の向上に資することを目的とする。

PMDAの仕事には、承認審査など(ここまでの薬機法の記事でずっと扱ってきた仕事)と、健康被害の救済の2つがあります。この単元で対象になるのは前半の「救済」のほうです。条文が長いので、どこの話をしているのかを見失わないようにしてください。

制度は2本立て

制度 対象
医薬品副作用被害救済制度 許可医薬品等の副作用
生物由来製品感染等被害救済制度 許可生物由来製品等を介した感染等

中身はほぼ同じで、対象が違うだけです。まず副作用のほうを固めて、最後に「感染等のほうは何が違うか」だけ足すのが効率的です。

手続きの流れ

医薬品副作用被害救済制度の手続きの流れ(健康被害者→PMDAへ給付請求、PMDAが厚生労働大臣へ判定の申し出、厚生労働大臣が薬事審議会へ諮問し答申、判定結果の通知を受けてPMDAが給付。製造販売業者から一般拠出金と付加拠出金、国から事務費の補助金)
医薬品副作用被害救済制度の手続きの流れ(健康被害者→PMDAへ給付請求、PMDAが厚生労働大臣へ判定の申し出、厚生労働大臣が薬事審議会へ諮問し答申、判定結果の通知を受けてPMDAが給付。製造販売業者から一般拠出金と付加拠出金、国から事務費の補助金)
  1. 健康被害者(本人または遺族)がPMDAに給付請求する
  2. PMDAが厚生労働大臣に判定を申し出る
  3. 厚生労働大臣が薬事審議会に諮問する
  4. 薬事審議会が答申する
  5. 厚生労働大臣からPMDAへ判定結果の通知
  6. PMDAが健康被害者に給付する

請求する先も、給付する主体もPMDAです。「厚生労働省に申請する」ではありません。第110回 問75では、この流れを示した図の空欄を埋める形で「健康被害者が給付を請求する先」が問われています。答えはPMDAです。

審議会の名前が変わっています

この意見を聴く審議会は、長らく「薬事・食品衛生審議会」でしたが、2024年(令和6年)4月1日から「薬事審議会」に改称されました。第110回の問題図にも「*(旧)薬事・食品衛生審議会」という注記が付いています。古い教材では旧名称のままなので、読み替えてください。なお「薬事審議委員会」という組織は存在しません。

医薬品副作用被害救済制度

用語の定義

機構法での用語なので、条文の言い回しごと覚えておきましょう。

許可医薬品

薬機法の医薬品のうち、製造販売業者が製造販売承認を受けたもの。 ただし、厚生労働大臣が指定する抗がん剤、動物用医薬品などを除く。

要するに「正規のルートで承認され、販売されている医薬品」ということです。

許可医薬品等の副作用

許可医薬品または許可再生医療等製品が、適正な使用目的に従い適正に使用された場合の有害な反応。

「適正な目的で、適正に使った」という条件が入っているのがポイントです。誤用や乱用による健康被害は対象になりません。

対象にならないもの

対象外 理由
医薬部外品・医療機器 そもそも「医薬品」ではない
治験薬 承認を受けていない(=許可医薬品ではない)
厚生労働大臣が指定する抗がん剤 副作用が出ることを前提に使用するため
動物用医薬品 人の健康被害を救済する制度だから

抗がん剤が外れている理由は納得しやすいはずです。重い副作用が避けられないことを承知のうえで使う薬まで対象にすると、制度が成り立ちません。

治験薬が対象外というのも狙われます。第101回 問146では「治験薬による健康被害も救済対象になる」という誤りの選択肢が出ています。治験の被害は、GCP省令に基づく治験依頼者の補償でカバーされる世界です。

給付の対象と内容

給付対象は入院を必要とする程度の疾病、障害、死亡。

給付対象 給付の内容
入院レベルの疾病 医療費(医療保険等が使える場合は自己負担分)
障害 障害年金・障害児養育年金など
死亡 遺族年金・葬祭料など

なお「入院レベル」とは、実際に入院したかどうかではなく症状の程度の話です。やむを得ない事情で自宅療養していた場合でも、入院が必要な程度と判断されれば対象になります。

給付されない場合(ここが頻出)

  1. 副作用や障害の程度が軽い場合
  2. 請求期限を経過した場合
  3. 予防接種法による予防接種で生じた健康被害 → 予防接種法の救済を受ける
  4. 賠償責任者が明らかな場合
  5. 厚生労働省令で定める場合(例:救命のために通常量以上を使用した場合など)

第101回 問146は、このうち2つが正解になる問題でした。

  • 「予防接種法の規定による定期の予防接種で生じた健康被害は、救済対象とならない」→ 正しい
  • 「健康被害の程度によらず、救済される制度である」→ 誤り(程度が軽ければ給付されない)
  • 「救済給付金は、国からの補助金で賄われている」→ 誤り(次の節を参照)

「法律が違うならそちらで」「責任者がいるならそちらへ」という2つの切り分けが、給付されない理由の中心です。

財源:拠出金と補助金

全体像

拠出金(製薬企業が納付)+ 国からの補助金

財源 出す人 使い道
一般拠出金 すべての許可医薬品・許可再生医療等製品の製造販売業者が、総出荷数量に応じて納付 給付+事務費
付加拠出金 健康被害の原因となった製造販売業者が、一般拠出金に加えて納付 同上
国の補助金 国 PMDAの事務費の2分の1相当額

国の補助金は「事務費」にしか使えない

ここが引っかけポイントです。

国からの補助金は事務費の半分であって、被害者への給付には充てられない。

「製薬業界全体で被害者を支える」という制度の趣旨からすれば当然です。国が給付金を出す制度ではありません。第101回 問146の「救済給付金は、国からの補助金で賄われている」が誤りなのは、この点によります。

薬局製造販売医薬品も拠出している

一般拠出金は「すべての製造販売業者」が対象なので、薬局製造販売医薬品(薬局製剤)も例外ではありません。個々の薬局が直接納めるのではなく、薬剤師会を通して支払われています。細かいところですが、聞かれることがあるので知っておいてください。

生物由来製品感染等被害救済制度

最後にこちらです。覚えることはほとんどありません。

医薬品副作用被害救済制度と、対象以外はほぼ同じ。

医薬品副作用被害救済制度 生物由来製品感染等被害救済制度
対象 許可医薬品等の副作用 許可生物由来製品等を介した感染等
対象製品 許可医薬品、許可再生医療等製品 許可生物由来製品、許可再生医療等製品(感染救済給付に係るもの)
拠出金の名称 副作用拠出金 感染拠出金
手続き・給付・財源の考え方 ― 同じ

違いは対象と拠出金の名前だけ、と割り切ってしまって大丈夫です。

「感染等」の「等」を忘れない

前回も触れましたが、制度名に「等」が入っているのはプリオンタンパクを想定しているからです。プリオンはウイルスのように感染するのではなく脳に蓄積するため、厳密には「感染」と言いきれない。それでも救済の対象に含めるために「感染等」となっています。

制度名を答えさせる問題では「生物由来製品感染被害救済制度」のように「等」を落とした選択肢が作れるので、正式名称で覚えておきましょう。

まとめ

  • 制度の趣旨は「健康被害の救済を民事責任から切り離す」こと。賠償責任者が明らかでない場合の救済が目的で、製薬業界全体で支える
  • 根拠法は独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(機構法)。PMDA設立の根拠法でもある
  • 手続きは健康被害者 → PMDAに給付請求 → 厚生労働大臣が薬事審議会に諮問・答申 → 判定通知 → PMDAが給付
  • 薬事審議会は2024年4月に「薬事・食品衛生審議会」から改称された現行名称
  • 許可医薬品等の副作用=適正な使用目的に従い適正に使用された場合の有害な反応
  • 対象外は医薬部外品・医療機器・治験薬、厚生労働大臣が指定する抗がん剤・動物用医薬品
  • 給付対象は入院レベルの疾病・障害・死亡
  • 給付されないのは程度が軽い/請求期限経過/予防接種法の予防接種/賠償責任者が明らか/厚生労働省令で定める場合
  • 財源は一般拠出金(全業者・総出荷数量に応じて)と付加拠出金(原因企業が追加)。国の補助金は事務費の1/2のみで、給付には充てられない
  • 生物由来製品感染等被害救済制度は、対象と拠出金の名称(感染拠出金)以外はほぼ同じ

これで「薬学と社会」は終わりです。次は国民医療費の動向を数字で押さえる(財源別・診療種類別の内訳と薬局調剤医療費)から、社会保障制度と医療経済の分野に入っていきます。医薬品が「どう管理されるか」の話から、「どうお金が回っているか」の話へ、視点が大きく切り替わります。

法規を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。

法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。

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