医薬品医療機器等法(薬機法)

薬害の歴史年表(ペニシリンショック〜イレッサ訴訟)と各事件が生んだ安全対策【薬剤師国家試験】

薬害は、法規の中でもとりわけ出題頻度が高いテーマです。しかも必須問題での出題が多く、1問まるごと薬害という形で毎年のように顔を出します。

ここを乗り切るコツは、年号と医薬品名を機械的に丸暗記しないことです。「この事件が起きたから、この安全対策ができた」という因果でつなぐと、記憶の粘りがまったく違ってきます。しかも、ここまでの薬機法の記事で学んできた制度 ── 非臨床試験、副作用報告、市販直後調査、生物由来製品の特例、添付文書の様式 ── の生まれた理由が、そのまま薬害の歴史なのです。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。

マインドマップで見る「薬害と健康被害救済制度」

薬害と健康被害救済制度のマインドマップ(薬害の歴史・医薬品副作用救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度)
薬害と健康被害救済制度のマインドマップ(薬害の歴史・医薬品副作用救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度)

薬害の年表

まずは全体を一度に見てしまいましょう。

薬害の年表(1956年ペニシリン注射剤から2002〜2004年イレッサ訴訟までの時期・医薬品名・被害の概要・主な行政の安全対策の一覧表)
薬害の年表(1956年ペニシリン注射剤から2002〜2004年イレッサ訴訟までの時期・医薬品名・被害の概要・主な行政の安全対策の一覧表)
時期 事件 被害の概要 生まれた安全対策
1956年5月 ペニシリン注射剤 アナフィラキシーショック死 アレルギーテストの実施
1961年〜 サリドマイド 先天異常(四肢の奇形・胎芽病) 非臨床試験の生殖発生毒性試験の実施義務、製造販売承認の基本方針策定
1965年2月〜 アンプル入りかぜ薬事件 アミノピリン等の内服水溶液剤によるショック死 副作用モニター制度の発足
1970年9月〜 キノホルム中毒(スモン事件) 亜急性脊髄視神経症(SMON) 医薬品副作用被害救済制度の開始
1971年10月〜 クロロキン中毒 クロロキン網膜症(視野・視力障害) ―
1971〜1990年代 C型肝炎ウイルス感染 フィブリノゲン製剤・血液凝固因子製剤による感染 ―
1980年代 薬害エイズ 非加熱濃縮血液製剤によるHIV感染 生物由来製品の規制、感染症被害救済事業の契機
1993年9月 ソリブジン事件 5-FU系抗がん剤との相互作用による死亡 添付文書の様式変更(冒頭に警告・禁忌)、市販直後調査の導入
1996年11月 クロイツフェルト・ヤコブ病 異常プリオンに汚染されたヒト乾燥硬膜 生物由来製品に関する規制、生物由来製品感染等被害救済制度の創設
2002〜2004年 イレッサ訴訟(薬害認定なし) ゲフィチニブによる間質性肺炎・急性肺障害 緊急安全性情報の配布指示

以下、1つずつ見ていきます。

1956年 ペニシリンショック

歯科治療中に受けたペニシリン注射剤で、急激な血圧低下と呼吸困難を起こして死亡した例などが報告されました。アナフィラキシーショックです。

このとき亡くなったのが東京大学法学部の教授だったこともあり、社会的に大きく報じられました。この事件をきっかけに行政が求めたのがアレルギーテストの実施です。

「ペニシリン=アナフィラキシー=アレルギーテスト」。3点セットで覚えると、必須問題で即答できます。

1961年〜 サリドマイド

妊娠中にサリドマイド製剤を服用したことで、四肢の奇形(胎芽病)を持つ児が出生した事件です。薬害の代名詞と言ってよい事例で、国際的にも知られています。

なぜ起きたのか

当時は、薬が胎盤を通って胎児に移行するということ自体が十分に理解されていませんでした。サリドマイドはもともと抗てんかん薬として開発されたものの、鎮静作用・催眠作用があったことから睡眠薬・鎮静薬として使われ、つわりを訴える妊婦にもよく処方されたという背景があります。

日本で被害が広がった理由

すでにヨーロッパでは被害が出はじめており、アメリカは「危ないのではないか」と承認を延期していました。しかし日本ではそうした判断が働かず、被害が拡大してしまいます。

生まれた安全対策

  • 非臨床試験の生殖発生毒性試験の実施義務
  • 製造販売承認(当時の製造承認)の基本方針の策定

非臨床試験のポイントで扱った生殖発生毒性試験が義務づけられた理由が、まさにこの事件です。「動物で胎児への影響を調べる試験は、なぜ必要なのか」── サリドマイドの答えがここにあります。

1965年〜 アンプル入りかぜ薬事件

アンプルにアミノピリンなどを溶かした水溶液剤が入っていて、パキッと割って飲むタイプのかぜ薬がありました。これを服用した後にショック死などの重篤な副作用が発生した事件です。

当時はまだ、剤形が変わると吸収や排泄が変わるということが十分に知られていませんでした。水溶液を一気に飲めば急速に吸収されて血中濃度が跳ね上がる、という今なら当たり前の発想が共有されていなかったのです。

生まれた安全対策:副作用モニター制度

この事件をきっかけに副作用モニター制度が発足しました。これが、現在の医薬品・医療機器等安全性情報報告制度の前身です。

承認後の安全対策の記事で、副作用等の報告には企業からの報告と医療関係者からの報告の2つがある、という話をしました。このうち医療関係者からの報告にあたる制度の原型が、ここで生まれています。

1970年〜 キノホルム中毒(スモン事件)

整腸剤として使われたキノホルムにより、SMON(亜急性脊髄視神経症)が多発した事件です。下半身の麻痺や神経の症状が現れました。

SMON = subacute myelo-optico-neuropathy = 亜急性脊髄視神経症

「亜急性」「視神経」の2文字を落とさないでください。第111回 問73では、まさに「亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy)を生じて、薬害の原因となった医薬品はどれか」という形で、サリドマイド・クロロキン・キノホルム・ソリブジン・ペニシリンから選ばせています。

キノホルムはもともと皮膚の消毒薬として使われはじめた薬でした。それがアメーバ赤痢、さらに整腸剤へと適応が広がる過程で被害が拡大した、と説明されています。

生まれた安全対策:医薬品副作用被害救済制度

この事件が、医薬品副作用被害救済制度そのものの発足契機になりました。次の記事(医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度のしくみ)の主役です。

第101回 問146でも「キノホルムによるスモン(SMON)が制度発足の契機となった」が正しい記述として出題されています。スモン → 副作用被害救済制度は、そのまま1問になる組み合わせです。

1971年〜 クロロキン中毒

抗マラリア薬・抗リウマチ薬として使われたクロロキンの長期投与により、視野障害・視力障害をきたした事件です。この眼障害をクロロキン網膜症といいます。

第101回 問76では「長期大量投与により網膜症を生じて、薬害の原因となった医薬品はどれか」と、ほぼこの1文で問われています。クロロキン=網膜症は反射で出るようにしておきましょう。

1971〜1990年代 C型肝炎ウイルス感染

フィブリノゲン製剤や血液凝固因子製剤を介して、多くの患者がC型肝炎ウイルスに感染した事件です。推定で1万人規模とされ、現在は特別措置法と基金による救済が行われています。

1980年代 薬害エイズ

非加熱濃縮血液製剤を使用した患者がHIVに感染した事件です。使っていたのは主に血友病の患者さんでした。

第103回 問75では「薬害エイズの原因となった非加熱濃縮血液製剤を用いて治療されていた疾患はどれか」として、血友病・マラリア・C型肝炎・多発性骨髄腫・ハンセン病から選ばせる問題が出ています。薬害エイズ=血友病の結びつきは必須です。

この事件が、生物由来製品の規制と感染症被害救済事業の契機になりました。

1993年 ソリブジン事件

抗ウイルス薬ソリブジンと5-FU系抗がん剤の相互作用により、多数の死亡例が発生した事件です。

「相互作用が原因の薬害」といえばソリブジン。

第100回 問76では「次の薬物のうち、他の薬物との相互作用が原因となった薬害事象を引き起こしたのはどれか」と直球で問われ、サリドマイド・クロロキン・キノホルム・ソリブジン・アミノピリンから選ばせています。

生まれた安全対策

  • 添付文書の様式変更 ── 現在は当たり前になっている「冒頭に警告・禁忌」という並びは、この事件を契機に改められたものです
  • 市販直後調査の導入 ── 承認後6ヶ月間、重点的に副作用情報を集める制度(承認後の安全対策)

発売直後に集中して死亡例が出たという事件の性質が、そのまま「発売直後の6ヶ月を重点監視する」という制度設計につながっています。

1996年 クロイツフェルト・ヤコブ病

異常プリオンに汚染されたヒト乾燥硬膜の使用により、クロイツフェルト・ヤコブ病が発生した事件です。

生まれた安全対策

  • 生物由来製品に関する規制
  • 生物由来製品感染等被害救済制度の創設

なぜ「感染等」なのか

制度の名前に「等」が付いている理由が、この事件で説明できます。プリオンタンパクはウイルスのように感染するわけではなく、脳に蓄積するものです。厳密には「感染」ではない。だからこそ、それも救済の対象に含められるように「感染等」という書き方になっています。

特定生物由来製品の記録保存が30年/20年という異様に長い期間も、この病気の潜伏期間の長さから来ています。制度の数字と事件が、ここでつながります。

2002〜2004年 イレッサ訴訟

2002年7月に承認された肺がん治療薬イレッサ錠(ゲフィチニブ)の副作用として、間質性肺炎・急性肺障害により死者が続出しました。

ただし、この事例は薬害として認定されていません。行政の対応としては、厚生労働省が製薬企業に緊急安全性情報(イエローレター)の配布を指示しています。

「薬害認定なし」という点は、年表の中でこの事例だけの特徴なので、押さえておくと選択肢の切り分けに使えます。

事件と制度を対応させて覚える

最後に、制度側から逆引きできるようにしておきましょう。国家試験では「この制度はどの事件を契機に生まれたか」という聞かれ方もします。

制度・安全対策 契機になった事件
アレルギーテストの実施 ペニシリンショック
非臨床試験の生殖発生毒性試験 サリドマイド
副作用モニター制度(→医薬品・医療機器等安全性情報報告制度) アンプル入りかぜ薬事件
医薬品副作用被害救済制度 スモン(キノホルム)
生物由来製品の規制・感染症被害救済事業 薬害エイズ
添付文書の冒頭に警告・禁忌、市販直後調査 ソリブジン事件
生物由来製品感染等被害救済制度 クロイツフェルト・ヤコブ病
緊急安全性情報の配布指示 イレッサ

まとめ

  • ペニシリン=アナフィラキシー→アレルギーテスト
  • サリドマイド=四肢の奇形(胎芽病)→生殖発生毒性試験の義務化
  • アンプル入りかぜ薬=アミノピリン→副作用モニター制度
  • キノホルム(スモン)=亜急性脊髄視神経症→医薬品副作用被害救済制度
  • クロロキン=網膜症
  • 薬害エイズ=非加熱濃縮血液製剤→血友病患者のHIV感染
  • ソリブジン=5-FU系抗がん剤との相互作用→添付文書の冒頭に警告・禁忌、市販直後調査
  • クロイツフェルト・ヤコブ病=ヒト乾燥硬膜→生物由来製品感染等被害救済制度。「感染等」はプリオンが蓄積だから
  • イレッサ=間質性肺炎→緊急安全性情報。薬害認定はされていない

次は医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度のしくみを読んでみてください。これらの事件から生まれた制度が、実際にどう動くのかを見ていきます。

法規を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。

法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。

-医薬品医療機器等法(薬機法)

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