麻薬及び向精神薬取締法の最終回です。ここまでは制度の骨格(物質・免許・輸出入・譲渡譲受)を見てきました。今回はマインドマップの左半分、つまり薬局や病院で実際に麻薬を扱うときのルールに入ります。
処方箋の記載事項、容器の表示、封かん、保管、廃棄、事故の届出 ── どれも実務そのものなので、実践問題でも繰り返し問われるところです。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
マインドマップで見る「取り扱い・表示と封・麻薬処方箋」

麻薬処方箋の記載事項
普通の処方箋と何が違うのか、という視点で見るのがコツです。
必ず必要なもの
- 患者の氏名
- 麻薬の品名、分量、用法・用量
- 麻薬施用者の氏名と免許証の番号
- 記名押印または署名
- 発行年月日
このうち、普通の処方箋にないのが麻薬施用者の氏名と免許証番号です。ここがいちばん大事なので、赤線を引いてください。「誰が施用するのか、その医師は麻薬施用者として免許を持っているのか」を処方箋の上で証明させる、という発想です。
条文上は「患者の氏名、麻薬の品名、分量、用法用量、自己の氏名、免許証の番号その他厚生労働省令で定める事項を記載して、記名押印又は署名しなければならない」(麻薬及び向精神薬取締法 第27条)となっています。省令で定める事項には麻薬業務所の名称・所在地なども含まれます。
外来では必要だが、院内処方箋では不要なもの
- 患者の住所
- 処方箋の使用期間
理由を考えればすぐ納得できます。入院患者は病院の中にいるので住所を書く意味が薄く、使用期間(原則4日以内)も外に持ち出すわけではないので不要、ということです。
| 外来の麻薬処方箋 | 院内の麻薬処方箋 | |
|---|---|---|
| 患者の氏名 | ○ | ○ |
| 麻薬の品名・分量・用法用量 | ○ | ○ |
| 麻薬施用者の氏名・免許証番号 | ○ | ○ |
| 記名押印または署名 | ○ | ○ |
| 発行年月日 | ○ | ○ |
| 患者の住所 | ○ | 不要 |
| 処方箋の使用期間 | ○ | 不要 |
容器・被包の表示
麻薬は「㋮」、向精神薬は「㋕」
麻薬の容器・被包には丸に「麻」の記号を記載します。

向精神薬の容器・被包には丸に「向」の記号を記載します。

読み方は「マル麻(まるま)」「マル向(まるこう)」です。
実際の製品では、この記号が劇薬の表示(白地に赤枠・赤字)と一緒に印刷されていることがよくあります。たとえばコデインリン酸塩散10%には「劇」と「㋮」が、ペンタゾシン錠(第二種向精神薬)には「劇」と「㋕」が並びます。薬機法の毒薬・劇薬表示と、麻向法の㋮・㋕表示は別々の法律に基づく別々の義務なので、両方が必要なら両方書く ── そう整理しておけば混乱しません。
毒薬・劇薬の表示ルールそのものは毒薬・劇薬の表示ルールと交付制限14歳未満で扱っています。
封かん
封かんとは何か
麻薬の容器・被包には、政府発行の証紙で封をする。一度開ければ破れてしまう仕組みになっていて、「まだ開けられていない」ことを証明する。
封のまま譲渡するのはどこまでか

- 麻薬製造業者 → 麻薬元卸売業者 → 麻薬卸売業者 → 麻薬小売業者・麻薬診療施設:封のまま譲渡
- 麻薬小売業者・麻薬診療施設 → 患者:開封して交付または譲渡
業者の間を流れているうちは封を切らず、患者に渡す段階で初めて開封する。調剤するわけですから当然といえば当然ですが、条文として「開封して交付又は譲渡しなければならない」と定められている点がポイントです。
覚醒剤・向精神薬との違い
| 封かん | 患者へ渡すときの開封 | |
|---|---|---|
| 麻薬 | 政府発行の証紙で封かん | 開封して交付・譲渡 |
| 覚醒剤 | 政府発行の証紙で封かん | 規定なし |
| 向精神薬 | 封かんの制度がない | ― |
覚醒剤に開封の規定がないのは、覚醒剤取締法の記事で見たとおり、覚醒剤が薬局まで流通しないからです。向精神薬にはそもそも封かんの制度自体がありません。
保管・管理
麻薬
麻薬以外の医薬品(覚醒剤を除く)と区別し、鍵をかけた堅固な設備内に保管する。
カッコの中がすべてです。「麻薬以外の医薬品と区別する。ただし覚醒剤は除く」= 麻薬と覚醒剤は一緒に入れてよい。しかし覚醒剤原料はダメです。
国家試験で最頻出の引っかけ
「覚醒剤原料と麻薬を一緒に保管した」→ ✕ 「覚醒剤と麻薬を一緒に保管した」→ ○
第107回 問146でも「医薬品である覚醒剤原料は麻薬と一緒に保管できる」が誤りの選択肢として出題されています。一緒にしていいのは麻薬と覚醒剤だけ。
向精神薬
実地に盗難防止に必要な注意をするか、または施錠する。
この「実地に」という表現が独特です。意味としては、薬剤師が調剤室などで常に監視できる状態にあるなら施錠は不要、そうでないなら施錠してください、ということ。麻薬のように「必ず鍵をかけた堅固な設備」とまでは求められていません。
管理体制についても規定があります。
営業所ごとに向精神薬取扱責任者を置く。なれるのは薬剤師またはその他の知識・経験を有する者。
病院・診療所での麻薬の管理
麻薬診療施設に麻薬施用者が2人以上いるときは、麻薬管理者を置く。 麻薬施用者が1人なら、その施用者が管理業務も行ってよい。
詳しくは麻薬取扱者・向精神薬取扱者の種類と免許制度を参照してください。
廃棄
麻薬:原則は事前届出+立会い
原則:都道府県知事に届け出て、当該職員の立会いのもと廃棄する。
例外(調剤済みの麻薬):廃棄後30日以内に都道府県知事に届け出る(事後報告でOK)。
例外が置かれている理由は、すでに患者の手に渡ってしまった麻薬があるからです。患者さんが亡くなってご遺族から残薬を引き取った、というような場面では、いちいち事前に届け出て職員を呼んでいられません。そこで「調剤済麻薬廃棄届」を事後に出す形になっています。
この論点は実践問題で具体的な場面として問われます。第108回では、麻薬管理者が施設の他の職員の立会いのもとで持続点滴のシリンジを回収困難な方法で廃棄した、という状況で「都道府県知事への届出に関して正しいのはどれか」と聞かれ、選択肢に「廃棄した7日後に麻薬事故届を提出」「廃棄した7日後に麻薬廃棄届を提出」「廃棄した7日後に調剤済麻薬廃棄届を提出」「麻薬帳簿のコピーを提出」「届出はしなかった」が並びます。調剤済みの麻薬なので「調剤済麻薬廃棄届」を30日以内に、というのが正解筋です。
届出の名前が3つあること(麻薬事故届・麻薬廃棄届・調剤済麻薬廃棄届)と、どの場面でどれを使うかをセットで覚えてください。
向精神薬
届出の規定なし。
事故の届出
| 事故が起きたとき | |
|---|---|
| 麻薬 | 自分に免許を与えた者(免許権者)に届け出る |
| 向精神薬 | 一定数量以上の事故のときに免許権者に届け出る |
たとえば麻薬管理者の免許権者は都道府県知事なので、都道府県知事に届け出ます。「自分に免許をくれた人に報告する」と覚えておけば、どの取扱者でも迷いません。
向精神薬のほうには「一定数量以上」という条件が付いていて、少量の紛失などは届出不要です。ここも麻薬との緩急の差として押さえておきましょう。
まとめ
- 麻薬処方箋の最重要記載事項は麻薬施用者の氏名と免許証の番号
- 院内処方箋では、患者の住所と処方箋の使用期間が不要
- 容器・被包には麻薬=㋮(マル麻)、向精神薬=㋕(マル向)。劇薬の表示とは別の法律の義務なので両方書く
- 麻薬は政府発行の証紙で封かん。業者間は封のまま、患者へは開封して交付・譲渡
- 覚醒剤には開封の規定がなく、向精神薬には封かんの制度がない
- 麻薬の保管は鍵をかけた堅固な設備内。覚醒剤とは一緒でOK、覚醒剤原料はNG
- 向精神薬の保管は実地に盗難防止に必要な注意または施錠。営業所ごとに向精神薬取扱責任者
- 麻薬の廃棄は知事へ届出+職員立会いが原則。調剤済みは30日以内に調剤済麻薬廃棄届
- 事故は免許権者に届け出る。向精神薬は一定数量以上のときだけ
次は大麻草栽培規制法とあへん法をまとめて整理(麻薬シリーズ最終回)を読んでみてください。麻薬の原料そのものを規制する2つの法律を、1本で片付けます。
法規を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、法規という科目のほんの一区画です。実際には、薬機法の総則から薬局・製造販売業・医薬品の取扱い、そして社会保障制度までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全26回・約5時間34分。「この省令は誰に向けた基準なのか」「さっき出てきた登場人物が、どこで再登場するのか」が、条文の羅列ではなく流れとして入ってきます。バラバラに覚えていた制度が、1本の線になる感覚です。
法規のマインドマップPDF+解説授業セットは¥9,450。無料のサンプル動画とサンプルPDFがあるので、この「たどる」感覚が自分に合うかどうかは、先に確かめられます。