
気液平衡に続いて、今回は液液平衡です。
液液平衡は、2つの物質の組み合わせが部分可溶液体であるときに問題になります。部分可溶液体とは、組成や温度によって1相になったり2相に分離したりする液体のこと。ドレッシングのように分離したり、混ざったりするあれですね。
その様子を組成と温度で描いたグラフが相互溶解度曲線で、上に凸・下に凸・円形の3パターンがあります。一番よく出るのは上部臨界溶解温度をもつ系(上に凸)です。
最後に、てこの規則を使った過去問の演習をやります。ここが本番です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
上部臨界溶解温度をもつ系

代表例はヘキサン–ニトロベンゼン系です。
- 温度が高いとき:熱運動が盛んなので、よく混ざっていられる → 1相
- 温度が下がる:熱運動が収まるので、2相に分離する
分離したあとも、完全に別れるわけではありません。ヘキサン側の層にはニトロベンゼンが飽和し、ニトロベンゼン側の層にはヘキサンが飽和している——この状態です。

グラフの読み方を必ず押さえてください。
- 曲線の外側 = 均一な1相
- 曲線の内側 = 2液相に分離
- 曲線の頂点が上部臨界溶解温度(UCST)
混合熱は一般的に吸熱です。
下部臨界溶解温度をもつ系

こちらは下に凸で、低いほうに臨界溶解温度(LCST) があります。例は水とアミンの系(マインドマップでは水–ジエチルアミン系)です。
温度が低いほうが混ざって、高いほうが分離する。上と逆ですね。なぜそうなるのかが答えになります。
低温では、両者が弱い錯体を形成しているから。 錯体になって一体化しているので混ざっていられます。ところが温度が上がると熱運動でその錯体が壊れてしまうので、2成分は溶けにくくなり、2相に分離します。
上部および下部臨界溶解温度をもつ系

2つの合わせ技です。例は水–ニコチン系。
- 低温:錯体を形成しているので混ざる → 1相
- 温度が上がる:錯体が壊れて2相に分離
- さらに温度を上げる:熱運動がめちゃくちゃ盛んになり、逆にまた混ざる → 1相
結果として、2相の領域が円形の島になります。下が LCST、上が UCST ですね。
過去問演習:てこの規則で解く(94回 問19)
上部臨界溶解温度をもつ系に対して、てこの規則で相の存在量を求めさせる問題が過去に出ています。実際に解いてみましょう。

問:290 K において、ヘキサンを多く含む層の量は、ニトロベンゼンを多く含む層の量の何倍か。
ステップ1:状況を想像する
まず、グラフの横軸が何かを確認します。 この図はニトロベンゼンのモル分率です。ここを取り違えると全部ずれます。
- 高温では1相。全体のニトロベンゼンのモル分率は 0.41(ヘキサンは 0.59)
- 温度を下げていくと、292 K あたりで「これ以上は溶けきれない」となる
- さらに下げて 290 K では、完全に2相に分離している
2相の中身は、ヘキサンを多く含む層(その中にもニトロベンゼンが溶けている)と、ニトロベンゼンを多く含む層(その中にもヘキサンが溶けている)です。
ステップ2:求めるものを式で書く
- ヘキサンを多く含む層の量を n′
- ニトロベンゼンを多く含む層の量を n″
「ヘキサン層は、ニトロベンゼン層の何倍か」ですから、求めるのは n′ / n″ です。
ステップ3:タイラインを引いて読み取る
290 K のところに水平線を引きます。曲線と交わる2点が、それぞれの層の組成です。
| 層 | ニトロベンゼンのモル分率 |
|---|---|
| ヘキサンを多く含む層 | 0.35(ニトロベンゼンが少ない側) |
| ニトロベンゼンを多く含む層 | 0.83(ニトロベンゼンが多い側) |
0.35 のほうは「ヘキサン層の中に溶けているニトロベンゼンが0.35」という意味です。ヘキサン自体は0.65ですね。0.83 のほうは「ニトロベンゼン層の中のニトロベンゼンが0.83、溶けているヘキサンが0.17」という意味になります。
ステップ4:てこの規則を使う
支点は全体の組成 0.41 です。そこからの距離を測ります。
- ヘキサン層側の腕の長さ:0.41 − 0.35 = 0.06
- ニトロベンゼン層側の腕の長さ:0.83 − 0.41 = 0.42
シーソーでつり合う条件は「重さ × 腕の長さ」が等しいこと。ここでは
n′ × 0.06 = n″ × 0.42
ステップ5:答えを出す
n′ / n″ = 0.42 / 0.06 = 7
答え:7倍
支点の近くに乗るほうが重い(量が多い)——シーソーの感覚がそのまま使えます。腕が短いヘキサン層のほうが量が多い、ということですね。
解き方の型
- 横軸が何かを確認する
- 求めたいものを n′ / n″ の形で書く
- タイラインを引いて3つの値(全体・左・右)を読む
- n′ × l′ = n″ × l″ と書いてから変形する
この順番でやれば、迷いません。
まとめ
- 部分可溶液体:組成や温度によって1相になったり2相に分離したりする液体。そのグラフが相互溶解度曲線
- 上部臨界溶解温度(UCST)をもつ系(上に凸):高温で混ざり、低温で2相に分離。例はヘキサン–ニトロベンゼン系。曲線の外側が1相、内側が2相。混合熱は一般に吸熱
- 下部臨界溶解温度(LCST)をもつ系(下に凸):低温では弱い錯体を形成して混ざるが、温度が上がると錯体が壊れて2相に分離
- 両方をもつ系:2相の領域が円形の島になる。例は水–ニコチン系
- てこの規則 n′ × l′ = n″ × l″ で相の量比が求まる。支点に近い(腕が短い)ほうが量が多い
- 94回 問19 の答えは 7倍(0.42 ÷ 0.06)
次は混合物の相図(固液平衡):共融混合物と固溶体。混合物の相図はこれで最後です。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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