物質のエネルギーと平衡(熱力学)

電気化学:ダニエル電池・濃淡電池と標準電極電位【薬剤師国家試験】

電気化学のマインドマップ
電気化学のマインドマップ

熱力学クラスターの最後、電気化学です。

流れはシンプルです。電池の反応は酸化還元であり、その電子のやり取りを数値化して応用したものが電池——この一本道で進みます。電解質溶液までの重い理論に比べると、ここはかなり楽なはずです。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

酸化還元と電池の仕組み

まず基本の確認から。

  • 酸化:A → A⁺ + e⁻ (電子を放出する)
  • 還元:B⁺ + e⁻ → B (電子を受け取る)

この電子のやり取りを、電球など外部に取り出せるようにしたものが電池です。

酸化還元と電子の流れ
酸化還元と電子の流れ

A の側が酸化されて電子を出す。その電子は外部回路を流れて、B の側(正極)に入る。そこで溶液中の B⁺ が電子を受け取って B になって析出する——これが電池の基本の仕組みです。

電子の流れと電流の流れは逆

ここは必ず押さえてください。

  • 電子は、酸化反応が起きている側(負極)から、還元反応が起きている側(正極)へ流れる
  • 電流の向きは、その逆

歴史的な理由です。昔は正の電荷が流れていると考えられていましたが、実際に流れているのは負の電荷(電子)だったため、定義が逆のまま残ってしまいました。

イオン化傾向

どういうものが負極になりやすく、どういうものが正極になりやすいのか。ここでイオン化傾向の出番です。

  • 電子を出しやすい = イオン化傾向が大きい
  • 電子を出しにくい = イオン化傾向が小さい
イオン化傾向の語呂
イオン化傾向の語呂

貸そうかな まぁ 当 て に すんな ひ ど すぎる借金

K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H₂) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

K はイオンになりやすく、Pt や Au はイオンになりにくい。中学の化学で覚えたものが、そのままここで効いてきます。

標準電極電位

傾向は分かりました。次は数値に落とし込みたい。「亜鉛と銅ならどれくらいの電圧が出るのか」を知りたいわけです。

しかし、鉛と亜鉛、銅と亜鉛、鉄とマグネシウム……と組み合わせは無数にあります。全部の組み合わせで測るのは面倒ですよね。

そこで、標準水素電極を0 Vと決めて、それを基準に全部測ろうということにしました。

標準電極電位とは、標準水素電極との電位差のこと。

測り方:Cu の場合

標準水素電極でCuを測る
標準水素電極でCuを測る

標準水素電極を負極として測ります。

銅は「貸そうかな…ひどすぎる」のどのところ、つまり水素より右(イオン化傾向が小さい)です。だから水素のほうが電子を出すのは自然なことですね。電子は水素電極から銅へ流れます。

このとき電位差を測ると、標準水素電極より銅のほうが電位が高く、+0.34 V と分かります。

測り方:Zn の場合

亜鉛は「あてにすんな」のて、つまり水素より左(イオン化傾向が大きい)です。

今度は亜鉛のほうが電子を出したくて仕方がない状態なので、電子は亜鉛から水素電極へ流れます。さっきと電流の向きが逆になりますね。

この場合、電位差はマイナスの値になり、−0.76 V です。

標準電極電位の表

標準電極電位
標準電極電位
電極 標準電極電位
K⁺/K −2.93 V
Ca²⁺/Ca −2.87 V
Na⁺/Na −2.71 V
Zn²⁺/Zn −0.76 V
2H⁺/H₂ 0.00 V
Cu²⁺/Cu +0.34 V
Ag⁺/Ag +0.80 V

個々の数値を覚える必要はありません。 水素を0とした1本の物差しができた、ということが分かればOKです。並び順がイオン化傾向と対応していることも確認しておいてください。

標準起電力

E = 正極の標準電極電位 − 負極の標準電極電位

銅と亜鉛なら、

E = 0.34 − (−0.76) = 1.10 V

マイナスを引くのでプラスになる、というところだけ注意すれば計算は簡単ですね。

ダニエル電池

ダニエル電池
ダニエル電池

負極に Zn、正極に Cu を使い、それぞれ別の溶液に浸けた電池です。

  • 負極側:ZnSO₄溶液
  • 正極側:CuSO₄溶液

反応

  • 負極(anode):Zn → Zn²⁺ + 2e⁻(酸化)
  • 正極(cathode):Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(還元)

亜鉛が酸化されて電子を出す。その電子が電線を伝って正極へ行き、水溶液中の Cu²⁺ に渡される。Cu が電極上に析出します。

標準起電力は先ほど計算したとおり 0.34 − (−0.76) = 1.10 V です。

なぜ2つの溶液を隔てるのか

ここがこの電池の肝です。

隔てなければ、電子を外部に取り出せないから。 仕切りがなければ、Zn が出した電子は溶液中の Cu²⁺ に直接渡ってしまい、外部回路を通ってくれません。

しかし、完全に遮断してもだめです。亜鉛が Zn²⁺ になると負極側の溶液はプラスに偏り、銅が析出すると正極側はマイナスに偏っていきます。電気的なバランスが崩れると、それ以上反応が進まなくなるのです。

そこで、イオンは通れるが溶液は混ざらないという仕切りを入れます。方式は2つあります。

方式 仕組み
多孔質隔壁 イオンは通れるが溶液は混ざらない壁で隔てる(古い方式)
塩橋 ガラス管に濃厚な塩をゲル状に詰めたもの。液間電位差を極めて小さくする

塩橋では、負極側がプラスに偏れば塩橋から陰イオンが出ていき、正極側がマイナスに偏れば陽イオンが出ていく、という形で電気的なバランスを保ちます。どちらの方式でもダニエル電池と呼びます。

濃淡電池

濃淡電池
濃淡電池

ダニエル電池との違いは1つだけ。両側で同じ種類の溶液を使うことです。

では、なぜ電池になるのか。濃さが違うからです。

同じ種類の半電池を組み合わせ、活量(濃度)の差で起電力が生じる。 これが濃淡電池です。ここまで学んできた化学ポテンシャルの差を、電気として取り出しているわけですね。

反応

ZnSO₄溶液の濃淡電池で考えます。

  • 右側(高濃度):Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn(還元・cathode)
  • 左側(低濃度):Zn → Zn²⁺ + 2e⁻(酸化・anode)

全反応は、

Zn²⁺(高濃度) + Zn(低濃度) → Zn(高濃度) + Zn²⁺(低濃度)

濃い側は Zn²⁺ がたくさんいるので、電子を受け取って金属に戻りたがる。薄い側は Zn²⁺ が少ないので、「もう少し増えてもいい」——だから金属亜鉛がイオンになって補充する。こうして濃度差が解消される方向に反応が進みます。

注意:全反応の式だけ見ると Zn²⁺ が仕切りを通って移動しているように見えますが、実際に起きているのは酸化還元反応で、電子のやり取りがされています。 ここは混同しないでください。

まとめ

  • 電池は酸化還元反応の電子のやり取りを、外部に取り出せるようにしたもの
  • 酸化(電子を放出)する側が負極、還元(電子を受け取る)側が正極。電子の流れと電流の流れは逆
  • イオン化傾向:貸そうかな まぁ 当 て に すんな ひ ど すぎる借金(K Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb H₂ Cu Hg Ag Pt Au)
  • 標準電極電位は標準水素電極(0 V)との電位差。Zn²⁺/Zn = −0.76 V、Cu²⁺/Cu = +0.34 V
  • 標準起電力 E = 正極の標準電極電位 − 負極の標準電極電位。銅と亜鉛なら 1.10 V
  • ダニエル電池:負極 Zn → Zn²⁺ + 2e⁻、正極 Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu。多孔質隔壁または塩橋で隔てる。塩橋は液間電位差を極めて小さくする
  • 濃淡電池:同じ種類の半電池を、濃度(活量)の差で組み合わせたもの。高濃度側が還元(正極)、低濃度側が酸化(負極)

熱力学クラスター、おつかれさまでした

これで熱力学の全16記事が終わりです。長い道のりでしたが、最後のほうは簡単だったのではないでしょうか。

みんなが引っかかるのは、やはり自発的反応の判断から部分モル量と化学ポテンシャルのあたりです。この教材ではそこを厚めに説明しました。そこを押さえたからこそ、束一的性質も混合物の相図も電解質溶液も「なぜそうなるか」で読めたはずです。

逆に、「難しいからここはやらない」としてしまうと、溶液論の基礎も混合物の相図も電解質溶液も、全部丸暗記になってしまいます。アレニウス式の縦軸と横軸がどっちだったか、といったことまで暗記対象になる——それはさすがにきついですよね。

難しいところをしっかりやって、それを後半に適用する。 この順で復習してみてください。分からなければ、動画やマインドマップに戻れば大丈夫です。

全体像をもう一度確認したい人は熱力学の全体像:化学ポテンシャルへの道を1本につなげるに戻ってみてください。ここまで来てから読み返すと、最初に読んだときとは見え方が変わっているはずです。

物質の物理的性質は、このあと反応速度へと続いていきます。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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