
前回で用語の整理が終わったので、ここからは実際に使っていきます。
この記事は大きく2部構成です。
- 変化の条件(過程の種類) — 定容・定圧・等温・断熱の4つで、熱と仕事がどうなるか
- 熱容量 — ある系を1度温めるのに何ジュール必要か。それを過程ごとに考える
前提はすべて理想気体です。そして、使う道具は前回の ΔU = q + W、W = −PΔV、U は T に比例の3つだけ。新しく覚えることはほとんどありません。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。
Contents
① 定容過程:ΔU = q

定容なので体積が一定、つまりピストンの位置が変わりません。
- ΔV = 0 なので、W = −PΔV = 0
- 熱力学第一法則 ΔU = q + W に代入して、ΔU = q
与えた熱が丸ごと内部エネルギーの増加になります。U は T に比例するので、その分だけ温度が上がる、というわけですね。4つの中で一番シンプルな形です。
② 定圧過程:ΔU = q − PΔV

定圧過程とは、系の内圧と外圧がほぼ等しい状態を保ちながら変化する過程のことです。熱をじわじわ入れて、内圧が外圧とつり合うようにゆっくり膨らませていくイメージ。実験は基本的に大気圧下でやるので、現実で一番よく使うのがこれです。
- 圧力一定で体積が ΔV 変化する → W = −PΔV
- ΔU = q − PΔV
小人目線で見てみましょう。小人は熱 q をもらいました。でも、そのうち一部を使って外に仕事をしたので疲れています。だから内部エネルギーの増え方は、定容過程より小さくなる。
同じ q を与えても、定圧過程のほうが温度は上がりにくい。 この比較を必ず覚えておいてください。後半の Cp > Cv に直結します。
③ 等温過程:q = −W

温度が一定の過程です。ここで前回の「U は T に比例」が効いてきます。
- T一定 → ΔT = 0 → ΔU = 0
- ΔU = q + W = 0 なので、q = −W
与えた熱が全部、仕事に使われたということですね。内部エネルギーには一切たまりません。
④ 断熱過程:ΔU = W

熱の出入りを遮断した過程です。
- 断熱なので q = 0
- ΔU = W
小人は熱をもらえないのに、外に仕事をさせられています。ご飯なしで働かされているようなものなので、内部エネルギーは減ってしまう。U は T に比例するので、温度が下がります。
4つの過程のまとめ
| 過程 | 条件 | 式 | 起こること |
|---|---|---|---|
| 定容 | ΔV = 0 → W = 0 | ΔU = q | 与えた熱の分だけ温度上昇 |
| 定圧 | P一定 | ΔU = q − PΔV | 定容より温度が上がりにくい |
| 等温 | T一定 → ΔU = 0 | q = −W | 与えた熱が全部仕事になる |
| 断熱 | q = 0 | ΔU = W | 外に仕事をすると温度低下 |
この表を丸暗記するのではなく、「前と後の絵を描いて、何が一定か決めて、第一法則に入れる」という手順を自分でできるようにしてください。そうすれば4つとも自力で再現できます。
熱容量の定義
後半です。熱容量 C とは、
物質の温度を1 K(1℃)上昇させるのに必要な熱量。
式では C = dq/dT。単位は J・K⁻¹ です。
具体例で確認しましょう。ある物質に q = 100 J の熱を与えたら、温度が5 K 上がったとします。1 K 上げるのに必要な熱量は 100 ÷ 5 = 20 J・K⁻¹。これがこの物質の熱容量です。
比熱容量とモル熱容量
熱容量は物質量に依存します(示量性)。だから物質どうしを比較するときは、量をそろえる必要があります。
| 量 | 基準 | 単位 |
|---|---|---|
| 比熱容量(比熱) | 1 g あたり | J・K⁻¹・g⁻¹ |
| モル熱容量 C_m | 1 mol あたり | J・K⁻¹・mol⁻¹ |
さきほどの例で、その物質が20 gだったとしましょう。熱容量は20 J・K⁻¹ でしたから、1 gあたりに換算すると 1 J・K⁻¹・g⁻¹。これが比熱容量です。molで割ればモル熱容量、というだけで、考え方はまったく同じですね。
定容熱容量 Cv

一定体積下での熱容量です。これが基本になります。
定容過程では W = 0 だったので q = ΔU。したがって
Cv = dq/dT = dU/dT
一定体積下で加えた熱は、その全てが内部エネルギーの増大に使われる、ということですね。
単原子分子理想気体で計算してみましょう。U = (3/2)nRT なので、n = 1 mol、ΔT = 1 K を入れると
ΔU = (3/2) × 1 mol × R × 1 K = (3/2)R
つまり Cv = (3/2)R。
(3/2)という係数は単原子分子理想気体だから出てくる数字で、単原子分子でなければ係数は変わります。「係数が変わるだけ」というイメージを持っておけば十分です。
定圧熱容量 Cp

一定圧力下での熱容量です。実験は大気圧下でやるので、実際にはこちらをよく使います。
定圧過程では ΔU = q − PΔV でしたから、q について解くと
q = ΔU + PΔV
これを1 mol、1 K で計算します。単原子分子理想気体なら ΔU の部分は (3/2)R。では PΔV はどうなるでしょうか。
PV = nRT に n = 1 mol、ΔT = 1 K を入れると、PΔV = R が残ります。したがって
Cp = (3/2)R + R = (5/2)R
Cp > Cv である理由
並べてみましょう。
| 熱容量 | 単原子分子理想気体での値 | 中身 |
|---|---|---|
| Cv | (3/2)R | 内部エネルギーの増加分だけ |
| Cp | (5/2)R | 内部エネルギーの増加分 + 膨張仕事の分 |
1 molの温度を1 K上げるのに、定圧過程のほうが仕事の分だけ余計に熱が必要です。温度を上げるだけでなく、膨張という仕事もさせなければならないからですね。だから
Cp > Cv
これは単原子分子理想気体に限った話ではなく、一般に成り立ちます。理由まで言えるようにしておいてください。
なお Cp は dH/dT とも書けます。この H がエンタルピーで、次の記事の主役です。定圧のとき q = ΔH になるので、Cp = dq/dT = dH/dT となるわけですね。ここは次を読んでから戻ってくれば十分です。
まとめ
- 前提は理想気体。道具は ΔU = q + W、W = −PΔV、U ∝ T の3つだけ
- 定容:W = 0 → ΔU = q。定圧:ΔU = q − PΔV(定容より温度が上がりにくい)
- 等温:ΔU = 0 → q = −W(与えた熱が全部仕事になる)。断熱:q = 0 → ΔU = W(温度低下)
- 熱容量 C = dq/dT。物質量をそろえたのが比熱容量(1 gあたり)とモル熱容量(1 molあたり)
- Cv = dU/dT。単原子分子理想気体で (3/2)R
- Cp = dH/dT。単原子分子理想気体で (5/2)R(内部エネルギー分 + 膨張仕事分 R)
- Cp > Cv。定圧では膨張仕事の分だけ余計に熱が要るため
次はエンタルピーとは?標準生成エンタルピーとヘスの法則です。ここまでの「定圧でやることが多い」という話が、そのままエンタルピー導入の理由になります。
物理を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
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