物質のエネルギーと平衡(熱力学)

混合物の相図(気液平衡):温度組成図とてこの規則、分留【薬剤師国家試験】

混合物の相図のマインドマップ
混合物の相図のマインドマップ

今回のテーマは一言でいうと、純物質でやった相平衡の考え方を、混合物に拡張することです。

純物質の相平衡のときは、成分が1つしかないので組成という考え方がありませんでした。混合物になると、そこに組成が変数として入ってきます。複雑になるぶん、どの変数を固定して見るかが大事になる——それが今回の勘どころです。

進め方は、ギブズの相律を2成分系に拡張 → 気液平衡 の順です。続く液液平衡と固液平衡は別記事で扱います。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。物理の解説授業は分光分析法の範囲をYouTubeで無料公開しているので、読むよりも動画で一気に見たい人はそちらもどうぞ。

ギブズの相律を2成分系へ

復習です。F = C − P + 2(覚え方は「自由は清掃にあり」)。

純物質(C = 1)では、相が1つの領域で F = 2 でした。だから横軸 T、縦軸 P の平面のグラフで足りたわけですね。

2成分系では C = 2 なので、

F = 2 − P + 2 = 4 − P

相は必ず1つ以上あるので、自由度は最大3。変数は温度・圧力・組成(モル分率)の3つです。

3つの変数を全部描こうとすると立体的なグラフになってしまい、面倒です。だから圧力か温度のどちらかを一定にして、平面で切り取る。 これが基本方針です。

固定するもの 得られる図
圧力一定(例:1 atm) 温度–組成図(沸点図)
温度一定 圧力–組成図
圧力一定のときのイメージ
圧力一定のときのイメージ

圧力を1 atmに決めると、変数が1つ減るので F′ = 3 − P になります。

気液が共存しているとき(P = 2)は F′ = 1。 つまり、温度を決めると組成(モル分率)が自動的に決まってしまうということです。しかも気相と液相で、それぞれ別々の値に決まります。この意味は、次の温度–組成図を見ればすぐ分かります。

温度一定のときのイメージ
温度一定のときのイメージ

一方、温度を一定にすると圧力–組成図になります。これ、どこかで見たことがありませんか?

ラウールの法則のグラフ
ラウールの法則のグラフ

そう、ラウールの法則で出てきた図がまさに圧力–組成図です。実はもう一度やっているわけですね。今回はそれを、気相のところまで含めて詳しく見ていきます。

温度–組成図(沸点図)

この単元で出るのは、圧倒的に温度–組成図です。 圧力–組成図は「そういうものがある」程度で構いません。

温度-組成図の基本形
温度-組成図の基本形

縦軸が温度 T、横軸がモル分率。横軸が A か B かは問題によって違うので、必ず確認してください。

  • 下側の線(液相線):液体混合物が沸騰し始める温度
  • 上側の線(気相線):その温度で気相にある組成
  • 左端が純粋な A の沸点、右端が純粋な B の沸点

このグラフはどうやって作られたのか

実験手順を想像すると、一気に分かりやすくなります。

  1. いろいろな組成の溶液を作る(x = 0.2、0.4、0.5、0.7……と何本も)
  2. それぞれを低温から加熱していく
  3. 沸騰する温度が分かる → 液相線の1点
  4. そのとき気相にあるものの組成を測る → 気相線の1点
  5. これを組成ごとに繰り返す

こうして点を結んだものが、このグラフです。

2相共存領域

液相線と気相線に挟まれた領域では、相の数 P = 2 なので F′ = 1。だから気相と液相は、それぞれの線の上にしか存在できません。「2相共存領域の内側に相がある」わけではない、というのがポイントです。

連結線(タイライン)とてこの規則

タイラインとてこの規則
タイラインとてこの規則

タイライン(連結線)とは、ある温度での気相と液相の組成を結ぶ水平な線です。

何が起こっているか

温度を上げていく過程を、ピストン付きの容器で想像してみましょう。

  • 低温:蒸気がまだ出ていないので、押しつぶされて液相だけ。このときのモル分率が x_B全 です
  • 液相線に達する:加熱されて蒸発し、蒸気圧と外圧が釣り合う
  • さらに温度を上げる:気相と液相に分かれる。全体の組成は変わらないのに、気相と液相ではモル分率が違う

左端が A の沸点、右端が B の沸点だとすると、沸点が低いほうが蒸発しやすい。だから気相にはそちらの成分が多く含まれます。

てこの規則

タイラインをシーソーだと思ってください。支点は全体の組成 x_B全 のところです。

n_気 : n_液 = l_液 : l_気

つまり、n_気 × l_気 = n_液 × l_液。

シーソーで、大人は支点の近く、子どもは支点の遠くに乗るとつり合う——あれと同じです。線分が長いほうの相は、量が少ない、という関係になります。

問題の解き方

「液相は気相の何倍ですか」と聞かれたら、

n_液 / n_気 = l_気 / l_液

を計算するだけです。問題では x_B全、x_B気、x_B液 の3つの値が与えられていることがほとんどなので、そこから l_気 と l_液 を出して割る、という手順になります。

まず「n_気 × l_気 = n_液 × l_液」と書いてから、聞かれた形に変形する。この順でやるとミスが減ります。

分留

分留は、蒸留を繰り返すことで純物質 A と B に分離する操作です。グラフの上でジグザグに動く様子として理解できます。

x_B = 0.9 くらいの溶液から始めるとしましょう。

  1. 加熱する → 液相線に達して沸騰
  2. 気相の組成を読む → タイラインを左にたどる。x_B が小さくなっている(仮に0.5)
  3. その気体を取り出して冷やす → 液体になる(x_B = 0.5 の液体)
  4. また加熱する → 沸騰して、気相の x_B はさらに小さくなる(仮に0.2)
  5. これを繰り返す

気相線と液相線のあいだをジグザグに進みながら、x_B が 0 に近づいていく。 つまりほぼ純粋な A が取れるわけですね。

一方、液相側に残るほうは B の濃度がどんどん濃くなっていくので、そちらからは純粋な B が取れます。

分留塔の仕組み

実際には、いちいち気体を取り出して冷やす必要はありません。分留塔では多段階の蒸留が自動的に行われています。

分留塔は上に行くほど温度が低くなっています。そこで蒸気でいられるものは純度が高く、その温度で蒸気でいられないものは液体に戻って落ちていく。下から上がってきた蒸気がまた温められて上がる——これを塔の中で何段も繰り返すことで、上部から純度の高い成分が取れるという仕組みです。

共沸点をもつ場合

ここから先は、講義の文字起こしがこの手前で終わっているため、マインドマップのノードと図を根拠にまとめています。

共沸点とは、一定圧力下で、液相と気相の組成が一致するときの温度です。そして共沸混合物は、蒸留しても組成が変化しない混合物のこと。気相と液相のモル分率の差を使って分留していたのに、その差がゼロになってしまうので、2成分への完全な分離ができません。

極大沸点をもつ場合

極大沸点をもつ場合
極大沸点をもつ場合
  • 原因:異種分子間(A–B)の相互作用が、同種分子間より強い → 混合熱は発熱
  • 例:アセトン–クロロホルム
  • 分留結果:純物質 A または B と、共沸混合物に分離する。共沸混合物は残液側に残りやすい

極小沸点をもつ場合

極小沸点をもつ場合
極小沸点をもつ場合
  • 原因:異種分子間(A–B)の相互作用が同種分子間より弱い → 予想以上に揮発性をもつ
  • 例:エタノール–水、ジオキサン–水
  • 分留結果:蒸気の組成が共沸混合物に近づく

エタノールと水を蒸留しても、ある濃度から先は純エタノールにならない——あの話がこれです。

活量係数の回を思い出してください。A–B の相互作用が弱い = γ > 1(正のずれ)= 蒸気圧が高い = 沸点が低い。 極小沸点と正のずれが、同じ理由で説明できていますね。

圧力–組成図

圧力-組成図
圧力-組成図

温度 T を固定したときの図です。押さえるのは特徴だけで構いません。

  • 液相線:ラウールの法則により直線(理想溶液の場合)
  • 気相線:曲線
  • 沸点図と異なり、液相線が気相線より常に上にある
  • 高圧側が均一な液相、低圧側が均一な気相

沸点図とは上下が逆になる、というところだけ意識しておけば、図を取り違えずに済みます。

まとめ

  • 2成分系では F = 4 − P。変数は温度・圧力・組成の3つで、自由度は最大3。圧力か温度を固定して平面で切り取る
  • 圧力一定 → 温度–組成図(沸点図)、温度一定 → 圧力–組成図(ラウールの法則の図がこれ)
  • 気液共存(P = 2)なら F′ = 1。温度を決めると気相・液相の組成が自動的に決まる
  • 温度–組成図は、組成ごとに溶液を作って加熱し、沸点と気相の組成を測るという実験で作られる
  • タイラインは、ある温度での気相と液相の組成を結ぶ線。てこの規則 n_気 × l_気 = n_液 × l_液 で相の量比が求まる
  • 分留は気相線と液相線のあいだをジグザグに進む操作。分留塔は上ほど低温で、多段階の蒸留を自動的に行っている
  • 共沸点では液相と気相の組成が一致し、共沸混合物は蒸留で分離できない
  • 極大沸点:A–B相互作用が強い(発熱)。例はアセトン–クロロホルム。極小沸点:A–B相互作用が弱い。例はエタノール–水
  • 圧力–組成図では液相線が直線・気相線が曲線で、液相線が上。沸点図と上下が逆

次は混合物の相図(液液平衡):相互溶解度曲線と臨界溶解温度です。てこの規則はそちらでもそのまま使います。

物理を、1枚の地図として頭に入れませんか

この記事の冒頭に載せたマインドマップは、物理という科目のほんの一区画です。実際には、物質の物理的性質から化学物質の分析、放射化学までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。

公式をバラバラに覚えようとすると物理は苦しくなりますが、「この式がどこから来て、どこにつながるのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。

物理のマインドマップ(¥3,500)は、その全体像を1冊にまとめたPDFです。無料サンプル(分光分析法の範囲)と、地図をたどりながら話すYouTubeの講義動画があるので、この進め方が自分に合うかどうかは先に確かめられます。

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