
薬物動態の計算は、たった1つのたとえから始まります。
体を1つのビーカーだと考えてみよう。
これだけです。このイメージが頭に入っていれば、分布容積も消失速度定数もクリアランスも、すべて同じビーカーの上で説明がつきます。逆にここを飛ばして式から入ると、何を計算しているのか分からないまま記号だけが増えていきます。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
体を1つのビーカーだと考える

1-コンパートメントモデルとは、体全体を1つの容器(コンパートメント)とみなす考え方です。
ビーカーに薬を投入すると、代謝や排泄によってどんどん薬が消えていきます。このとき、消えていくスピードには次の性質があります。
濃度が高ければ高いほど、消失速度も速くなる。
汚れがたくさんついているほど、洗い流されていくスピードも速い。そんなイメージです。式で書くと次のようになります。
V = k・C
Vが消失速度、Cが濃度、kが比例定数です。この「消失速度は濃度に比例する」という一文が、このあとの式変形すべての出発点になります。
分布容積Vd:仮想の液量

次に、分布容積Vdです。名前が難しそうに見えますが、中身はビーカーの話をそのまま続けるだけです。
ビーカーに薬をD(投与量)だけ入れました。そうしたら血中濃度がCになりました。さて、このビーカーの液量はいくつでしょうか。
答えは簡単です。液量 = 投与量 ÷ 濃度ですね。
たとえば100 mgを投与して血中濃度が1 mg/Lになったなら、「100 Lの液に溶かしたのと同じことだ」と考えられます。この100 Lにあたるものが分布容積Vdです。
Vd = D / C
なぜ「仮想の」容積なのか
ここで大事なのは、Vdは実際の体液量ではないという点です。
人の体液量はせいぜい40 L程度ですが、Vdが数百Lになる薬もあります。それは、薬が血液中ではなく組織のほうにたくさん移行しているからです。血中濃度が低く出る分、計算上の「液量」が大きくなる、というだけの話です。
だからVdは仮想の液量と呼ばれます。実体のある容器の大きさではなく、「血中濃度から逆算した見かけの容積」だと理解してください。
Vdの値が薬によってどう違うのか、代表的な薬とあわせて押さえたい人は分布容積とは?具体例と代表薬の覚え方をご覧ください。
このモデルで扱えること・扱えないこと
1-コンパートメントモデルは、体を1つの容器とみなす単純なモデルです。そのぶん割り切っている部分があります。
扱えること
- 血中濃度の時間変化(半減期、消失速度定数)
- クリアランス、AUC、バイオアベイラビリティ
- 点滴静注や繰り返し投与での定常状態
扱えないこと
- 薬が組織へ分布していく過程を分けて見ること(→ 2-コンパートメントモデル)
- 消失が肝臓由来なのか腎臓由来なのかを分けて見ること(→ 生理学的モデル)
国試の計算問題の多くは、この1-コンパートメントモデルで解けます。まずはこのモデルを完全にものにしてから、必要に応じて細かいモデルに進むのが効率的です。
まとめ
- 1-コンパートメントモデル = 体を1つのビーカーだと考える
- 出発点は「消失速度は濃度に比例する(V = k・C)」の一文
- 分布容積Vd = 投与量 ÷ 濃度
- Vdは実際の体液量ではなく、血中濃度から逆算した仮想の液量。組織へ多く移行する薬ほど大きくなる
- このモデルで国試の計算問題の多くが解ける
次は、この「消失速度は濃度に比例する」という式から血中濃度の式を導き、半減期を求めます。血中濃度の式の導出と半減期の求め方へ進んでください。
薬物動態解析の全体像は薬物動態解析の全体像と勉強の順番、ADMEとのつながりは薬物動態(ADME)まとめで確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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