化学物質の毒性

カドミウムの毒性|イタイイタイ病とβ₂-ミクログロブリン【薬剤師国家試験】

重金属のマインドマップ
重金属のマインドマップ

ここから重金属です。最初はカドミウム。

15年分の過去問で8回、直近5年でも3回出ている頻出物質です。そして毎回、同じところを聞かれます。「どこに効いて、なぜその指標が出るのか」。ここを機序で押さえてしまえば、選択肢を読んだ瞬間に切れるようになります。

この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。衛生の講義はYouTubeで全編無料公開しているので、読むより耳から流し込みたい人はそちらもどうぞ。

どこから体に入るか

食べ物、とくにコメです。

日本人のカドミウム摂取源はコメが最大で、これは土壌に由来します。鉱山の排水で汚染された土壌で育てられた米、という経路が過去の公害につながりました。

経口での吸収率は約5%。これは重要な数字です。第98回では「ヒトにおけるカドミウムの消化管吸収率は、およそ90%である」という選択肢が誤りとして出題されました。

90%はメチル水銀の数字です。両方覚えていないと引っかかります。

経口吸収率
カドミウム 約5%
メチル水銀 約95%

この対比で頭に入れてください。

標的は近位尿細管

カドミウムは腎臓の近位尿細管を壊します。機序は重金属の共通パターン、タンパク質のSH基と結合することです。

ただし、いきなり壊れるわけではありません。順番はこうです。

  1. 吸収されたカドミウムがメタロチオネインの合成を誘導する
  2. カドミウムはメタロチオネインに捕まり、Cd-メタロチオネイン複合体になる
  3. この複合体はほぼ無害だが、腎臓に沈着して排泄されにくい
  4. 慢性的に曝露が続くと、腎臓が抱えきれなくなり、近位尿細管が傷害される

つまり「解毒された状態で腎臓に溜め込む」のがカドミウムの特徴です。だから中毒は急性ではなく慢性の顔をしています。

メタロチオネインの詳細はメタロチオネインとは|重金属を捕まえる仕組みにあります。

なぜβ₂-ミクログロブリンが尿に出るのか

ここが理解できると、丸暗記が要らなくなります。

β₂-ミクログロブリンは、もともと血液中にある小さなタンパク質です。糸球体で濾過されますが、正常なら近位尿細管でほぼ全部が再吸収されます。だから健康な人の尿にはほとんど出てきません。

カドミウムが壊すのは、まさにその近位尿細管です。再吸収する側が壊れるので、本来なら戻されるはずのβ₂-ミクログロブリンが、そのまま尿に流れ出てくる。

「出てくる」のではなく「戻せなくなる」。向きが逆なんです。ここを押さえると、「尿細管障害のマーカー」という位置づけが腑に落ちます。

同じ理屈で、尿中のα₁-ミクログロブリンやN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)も尿細管障害のマーカーになります。

イタイイタイ病と骨軟化症

富山県神通川流域で発生した、四大公害病の1つです。

「イタイイタイ」の名前のとおり、全身の激しい痛みが特徴です。なぜ痛いのかというと、骨がもろくなって、少し動いただけで骨折するからです。

骨がもろくなる理由は、腎臓にあります。近位尿細管が壊れると、カルシウムやリンの再吸収ができなくなり、体外に流出する。さらにビタミンDの活性化(腎臓で行われる)も障害されます。結果として骨軟化症になります。

腎臓 → カルシウム喪失 → 骨軟化症 → 骨折 → 痛い。この順番です。「カドミウムが直接骨を溶かす」のではありません。

事件としての経緯と、他の三つの公害病との比較は四大公害病と典型七公害|環境基準があるのはどれかで扱っています。

語呂「角(Cd)にぶつけてβ₂イタい!」

  • 角(カド) = カドミウム
  • β₂ = 尿中β₂-ミクログロブリン
  • イタい = イタイイタイ病

机の角に足の小指をぶつけた場面を思い浮かべてください。原因物質・曝露指標・疾患の3点が1つの語呂に入っています。

発がん性 ― IARCグループ1

カドミウムおよびカドミウム化合物は、IARC(国際がん研究機関)の分類で「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」です。主な標的は肺で、職業曝露(吸入)による肺がんが根拠になっています。

第98回では「カドミウムは、IARCにおいて、ヒトに対する発がん性がある化学物質に分類されている」が正しい選択肢として出ています。

同じグループ1の重金属には、六価クロム化合物と無機ヒ素化合物があります。重金属でグループ1といえばCd・Cr(VI)・As、とまとめて覚えてください。

解毒

方法 内容
薬 EDTA(エデト酸カルシウムナトリウム)でキレート
体内の仕組み メタロチオネインが結合して毒性を下げ、腎に蓄積させる

なお、ジメルカプロール(BAL)はカドミウム中毒には推奨されません。BALと結合したカドミウムが腎毒性を強めるためです。BALは水銀・ヒ素・鉛・銅に使います。この区別はヒ素とその他の重金属の解毒薬一覧で確認してください。

国試ではこう問われる

回 問われ方 ポイント
第98回・問133 カドミウムに関する記述のうち正しいもの 消化管吸収率90%→誤り(約5%)。メタロチオネインとの結合で毒性が高まる→誤り(下がる)。IARCグループ1→正しい。主要な慢性毒性は腎近位尿細管障害→正しい
第110回・第111回 直近2年連続で出題 重金属の総合問題として
出題実績 15年で8回、直近5年で3回 安定して出続けている
頻出の組み合わせ Cd → 尿中β₂-ミクログロブリン 「腎で再吸収されるはずのものが漏れる」まで言えるように

「我が国で収穫された米からカドミウムは検出されなくなっている」という選択肢も第98回に出ましたが、これも誤りです。基準値(玄米および精米で0.4mg/kg以下)を超えないよう管理されているのであって、検出されないわけではありません。

まとめ

  • カドミウムの主な摂取源はコメ。経口吸収率は約5%(メチル水銀の95%と対で覚える)
  • 標的は腎臓の近位尿細管。機序はタンパクのSH基と結合
  • メタロチオネインが誘導され、無害な複合体として腎に沈着する。だから慢性中毒
  • 尿中β₂-ミクログロブリンが増えるのは、再吸収できなくなるから
  • イタイイタイ病:腎でのCa喪失 → 骨軟化症 → 骨折 → 激痛
  • 語呂「角(Cd)にぶつけてβ₂イタい!」
  • IARCグループ1(肺がん)。Cr(VI)・無機Asも同じグループ1
  • 解毒はEDTA。BALは使わない(腎毒性が増す)

次は水銀の毒性は3種類で別物|メチル・無機・金属水銀を読んでみてください。

動画で学びたい人へ

この内容は、YouTubeの講義動画でも解説しています。該当箇所から再生されます。

衛生を、1枚の地図として頭に入れませんか

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衛生は覚えることが多い科目ですが、数字や分類を単体で暗記しようとすると、似たものどうしが混ざって崩れます。「この物質がどの分類に入って、どの法律で規制されているのか」が地図として見えていると、覚える量そのものが減ります。

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