
注射剤や点眼剤は、体液と等張にする必要があります。そのために等張化剤(塩化ナトリウムなど)をどれだけ入れればいいか——それを求めるのが等張化計算です。
製剤分野では数少ない計算問題で、しかも解き方は3通りしかありません。覚えるべき数字は2つだけなので、そこを固めてしまえば確実な得点源になります。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
先に覚える数字は2つ
この2つを知らないと、問題文を読んでも手が動きません。逆に言えば、この2つさえあれば解けます。
| 覚える数字 | 意味 |
|---|---|
| 0.9% | 血清と等張なNaClの濃度 |
| 0.52℃ | 血清の氷点降下度 |
0.52℃の語呂はこれです。
「こびとが凍る」 こ → 5 び → 2(bi → 2) つまり 0.52℃
参考までに、ブドウ糖なら5%、グリセリンなら2.6%が等張になる濃度です。
3つの解き方
| 方法 | 与えられる値 | 考え方 |
|---|---|---|
| 食塩等量法 | 食塩当量 | 薬が「NaCl何g分の働きをするか」に換算する |
| 氷点降下度法 | 各成分の氷点降下度 | 薬が下げた分の残りを、NaClで稼ぐ |
| 等張容積法 | 容積価 | 薬1gを等張にするのに必要な水のmLがそのまま分かる |
どれを使うかは問題文に何が与えられているかで決まります。食塩当量が書いてあれば食塩等量法、氷点降下度が書いてあれば氷点降下度法——迷う場面はほとんどありません。
①食塩等量法
食塩当量の定義はこうです。
食塩当量 = その薬1gと同じ浸透圧になるNaClのg数
たとえばピロカルピン塩酸塩の食塩当量が0.24なら、「ピロカルピン塩酸塩1g = NaCl 0.24g分の働き」という意味になります。
考え方
100mLの等張液を作るには、NaClが0.9g必要です(0.9% = 100mL中に0.9g)。薬がその一部を肩代わりしてくれるので、足りない分だけNaClを足す——これが全てです。
加えるNaCl量 = 0.9g −(薬の食塩当量 × 薬のg数)
例題
ピロカルピン塩酸塩1%点眼剤を100mL調製するとき、等張化するのに0.66gの食塩を必要とした。ピロカルピン塩酸塩3%点眼液を100mL調製するとき、等張化に必要な食塩の量はいくらか。
手順1:まず食塩当量を逆算する
1%点眼剤100mLなので、ピロカルピン塩酸塩は1g。必要な食塩が0.66gだったということは、
ピロカルピンが肩代わりした分 = 0.9 − 0.66 = 0.24g
つまり食塩当量は0.24だと分かります。
手順2:3%のときに置き換える
3%点眼液100mLなら、ピロカルピン塩酸塩は3g。
3 × 0.24 = 0.72g 分の働き
手順3:足りない分を出す
0.9 − 0.72 = 0.18g
答え:0.18g
「0.9gの枠を、薬とNaClで分け合う」というイメージを持てば、式を覚えなくても解けます。
②氷点降下度法
大学受験でやった凝固点降下とまったく同じ現象です。溶質を入れると凝固点が下がる——水の場合それを氷点降下と呼んでいるだけの違いです。
血清と等張 = 氷点降下度が 0.52℃
つまり、0.52℃分の氷点降下を、薬とNaClで稼ぎ切ればいいわけです。
例題
ピロカルピン塩酸塩点眼液を等張化するための塩化ナトリウム量を求めよ。ピロカルピン塩酸塩1%溶液の氷点降下度は0.134℃、塩化ナトリウム1%溶液の氷点降下度は0.578℃である。ピロカルピン塩酸塩3gを用い、全量100mLとする。
手順1:薬が稼ぐ分を計算する
3gを100mLにするので、濃度は3%。1%で0.134℃なら、3%はその3倍です。
0.134 × 3 = 0.402℃
手順2:足りない分を出す
0.52 − 0.402 = 0.118℃
この0.118℃をNaClで稼ぎます。
手順3:NaClの量に換算する
NaClは1%(=100mL中に1g)で0.578℃下げます。0.118℃を稼ぐには、
0.118 ÷ 0.578 ≒ 0.204g
答え:約0.204g
食塩等量法とまったく同じ構造です。0.9gの枠が0.52℃の枠に変わっただけで、「薬が稼いだ残りをNaClで埋める」という流れは共通しています。
③等張容積法
容積価の定義はこうです。
容積価 = その薬1gを溶かして血清と等張な溶液にするために必要な水のmL数
たとえば硫酸亜鉛の容積価は16.7mL。これは「硫酸亜鉛1gを水16.7mLに溶かせば等張になる」という意味です。
他の2つと違って、等張化剤を足す量を計算する必要がありません。必要な水の量が最初から分かっているので、調製のときは非常に楽な方法です。
3つの使い分け
| 問題文にあるもの | 使う方法 | 埋めるべき「枠」 |
|---|---|---|
| 食塩当量 | 食塩等量法 | 0.9g(100mLあたり) |
| 氷点降下度 | 氷点降下度法 | 0.52℃ |
| 容積価 | 等張容積法 | (計算不要・必要な水のmLが分かる) |
食塩等量法と氷点降下度法は、どちらも「決まった枠を薬とNaClで分け合う」という同じ考え方です。枠が重さ(g)か温度(℃)かの違いしかありません。片方を理解すれば、もう片方は自動的に解けます。
まとめ
- 覚える数字は0.9%(NaClの等張濃度)と0.52℃(血清の氷点降下度、語呂「こびとが凍る」)の2つ
- 参考値としてブドウ糖5%・グリセリン2.6%
- 食塩当量 = 薬1gと同じ浸透圧になるNaClのg数。0.9g − (食塩当量 × 薬のg数) で求める
- 氷点降下度法は、0.52℃から薬が稼いだ分を引き、残りをNaClで埋める
- 容積価 = 薬1gを等張にするのに必要な水のmL数(例:硫酸亜鉛 16.7mL)
- 食塩等量法と氷点降下度法は同じ考え方。枠が g か ℃ かの違いだけ
次は無菌製剤の最後、点眼剤と眼軟膏です。点眼剤と眼軟膏(粒子径・容器・添加剤の違い)へ進んでください。注射剤の分類は注射剤の分類と局方の試験法、剤形全体の地図は剤形分類の全体像で確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
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