
製剤分野の最後のかたまり、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に入ります。最初のテーマはターゲティングです。
普通に薬を飲むと、正常な部位にも標的部位にも同じように薬が届いてしまいます。標的以外に届いた分が副作用になるわけです。そこで、
正常部位には行かせず、標的部位に多く届ける
これを実現する技術がターゲティングです。副作用が減り、効果が上がる——狙いは非常に分かりやすい分野です。
この記事は、もともと解説授業の動画で話している内容を記事に起こしたものです。読むより耳から流し込みたい人は、解説授業のページに無料のサンプル動画があるので、先に雰囲気を確かめてみてください。
Contents
2つの分類

| 分類 | 考え方 |
|---|---|
| 能動的ターゲティング | 標的の表面に特異的に発現する受容体などを利用し、積極的に送り込む |
| 受動的ターゲティング | 標的部位の特殊な環境を利用して、自然と集まりやすくする |
自分から狙っていくのが能動的、環境まかせで集まるのが受動的——名前どおりです。
薬剤で重点的に問われるのは受動的のほう
出題の重心が偏っているので、先に伝えておきます。
- 能動的ターゲティングは分子標的薬の話になり、薬理や病態の分野に近い内容です。薬剤では分類と代表例が分かれば十分
- 受動的ターゲティングはリポソームやリピッドマイクロスフェアといった製剤的な工夫そのものなので、薬剤で詳しく問われます
時間配分も、受動的ターゲティングに厚く取るのが効率的です。
受動的ターゲティングとEPR効果
なぜ「環境まかせ」で薬が集まるのか。腫瘍組織に特殊な事情があるからです。
腫瘍組織では ・バリア機能が低下して血管透過性が高い → 薬が入り込みやすい ・リンパ管が未発達 → 排出されにくく、蓄積されやすい
この「入りやすく、出にくい」現象をEPR効果といいます。受動的ターゲティングの土台になる概念なので、現象とセットで名前を覚えてください。
①リピッドマイクロスフェア

構造はo/w型のエマルションです。
外側が水相、内側に植物油、その境界を界面活性剤のレシチンが取り囲む。脂溶性の薬物を植物油の中に内包する
乳剤でやったo/w型そのもので、乳化剤としてのレシチンもここで使われています。
特徴は2つ。
| 特徴 | 中身 |
|---|---|
| 標的指向性の向上 | 動脈硬化病変部位・炎症部位へ集積しやすい(血管透過性が高まっている部位に入り込める) |
| 難水溶性薬の溶解性アップ | 水に溶けにくい薬を植物油に溶かし込めるので、体内に投与できるようになる |
代表的な薬は2つです。
| 薬 | 適応 | 工夫 |
|---|---|---|
| デキサメタゾンパルミチン酸エステル | 関節リウマチ | ステロイドをパルミチン酸エステルにして脂溶性にし、マイクロスフェアに封入 → 炎症部位に集積しやすい |
| PGE₁(アルプロスタジル) | 慢性動脈閉塞症 | 血管拡張作用を動脈硬化病変部位に効率よく届ける |
②リポソーム

リン脂質二重膜でできた小胞です。構造が優れていて、
膜(脂質層)の中に脂溶性の薬、内側の水相に水溶性の薬 — どちらも運べる
これがリポソームの最大の利点です。
ただし欠点があります。
マクロファージに取り込まれやすい
異物と認識されて貪食されてしまい、標的に届く前に消えてしまうのです。
PEG修飾リポソーム:水和層で身を隠す
そこで登場するのがPEG(ポリエチレングリコール)修飾です。
PEGは水と親和性が高い → リポソームの周りに水和層ができる → マクロファージに認識されにくくなる → 貪食されにくく、滞留性がアップする
水の層をまとって身を隠す、というイメージです。保護コロイドで疎水コロイドに親水コロイドをまとわせて安定化させたのと、発想がよく似ています。
リポソーム製剤の代表薬

「あむっと食べて ドッキリ レポート」 あむ → アムホテリシンB ドッキリ → ドキソルビシン レポート → リポソーム製剤
| 薬 | リポソーム化の狙い |
|---|---|
| アムホテリシンB | 抗真菌薬。腎毒性などの副作用を減らしつつ効果を維持する |
| ドキソルビシン | 抗がん剤。PEG修飾リポソームに封入して腫瘍組織に届きやすくし、正常組織への影響を減らす |
能動的ターゲティング
こちらは分類と代表例を押さえれば十分です。
分子標的薬
| 分類 | 代表例 |
|---|---|
| 抗体医薬品 | モノクローナル抗体(インフリキシマブなど) |
| 低分子の分子標的薬 | チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど) |
どちらも特定の受容体やタンパク質を狙い撃ちすることで効果を発揮します。
生体高分子由来のキャリア
代表例がトラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ®)です。トラスツズマブ単独との違いを理解すると、この分類の意味が分かります。
| 働き方 | |
|---|---|
| トラスツズマブ単独 | 腫瘍細胞の受容体に結合し、増殖シグナルをブロックする |
| トラスツズマブ エムタンシン | 抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体。受容体に結合したあと細胞内に取り込まれ、中で抗がん作用を示す |
つまり、抗体を「運び屋(キャリア)」として使い、薬物を細胞の中まで届けているわけです。これが能動的ターゲティングの典型です。
まとめ
- ターゲティングの狙いは正常部位には行かせず、標的部位に多く届けること
- 能動的=受容体などを利用して積極的に送り込む、受動的=標的部位の特殊な環境を利用する
- 薬剤で詳しく問われるのは受動的のほう
- EPR効果 = 腫瘍組織では血管透過性が高く(入りやすい)、リンパ管が未発達(出にくい)ため薬が蓄積する
- リピッドマイクロスフェアはo/w型エマルション。動脈硬化病変部位・炎症部位に集積し、難水溶性薬の溶解性も上がる。薬はデキサメタゾンパルミチン酸エステル(関節リウマチ)・アルプロスタジル(慢性動脈閉塞症)
- リポソームはリン脂質二重膜で、脂溶性薬も水溶性薬も運べる。欠点はマクロファージに取り込まれやすいこと
- PEG修飾リポソームは水和層ができて貪食されにくく、滞留性がアップする
- 語呂は「あむっと食べてドッキリレポート」= アムホテリシンB・ドキソルビシン・リポソーム製剤
- 能動的の代表は分子標的薬(抗体医薬品・チロシンキナーゼ阻害薬)と抗体薬物複合体(トラスツズマブ エムタンシン)
次はDDSの中心テーマ、放出制御です。コントロールドリリースの概要と4つの分類へ進んでください。製剤設計の最後は容器の種類と局方通則の温度、製剤分野の全体像は製剤化のサイエンスとは?で確認できます。
薬剤を、1枚の地図として頭に入れませんか
この記事の冒頭に載せたマインドマップは、薬剤という科目のほんの一区画です。実際には、吸収から分布・代謝・排泄、そして製剤設計までが、1枚の地図としてひと続きにつながっています。
解説授業は、その地図を端から端まで、実際にたどりながら話していく全33本・約11時間。「なぜこの薬がここで出てくるのか」「さっき覚えたあの話が、どこにつながるのか」が、バラバラの知識ではなく流れとして入ってきます。細切れに暗記してきたものが、1本の線になる感覚です。
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